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原田郁:ひとつの窓と醒める庭
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2013年 5月 10日

原田郁 「Home 005」2013, キャンバスにアクリル 1200 x 2100 mm

原田はコンピューターの中に家や公園のある架空の世界を作り、立って見える風景を描き続けている。そこには木が生え、絵を飾るギャラリーさえ存在している。そこに陽は昇り、時間によって影が移動する。原田はこうしてシミュレーションで作りあげた自分の空間の中の世界を現実のキャンバスの風景画に置き換え、現実世界で絵を描いている。

では原田が現実世界に興味を持っていないかというと、そうではない。原田の手法が極度に複雑になってきたのは、その現実世界で描いた絵画をもう一度仮想空間の中に戻し、そこに建てたギャラリーの壁面にその絵がかかった展示風景を再び実際の絵画として描くようになってからだろう。その展示風景がこちらの現実の世界に戻されて現実の壁にかかってみると、原田の絵画に描かれた絵画の空間は急に壁にあけられた窓に見えてくるのである。描かれた床や壁が現実の壁や床と呼応しはじめる。その横に架空の展示ギャラリーにかけられた絵画のオリジナルの絵画が飾られると視覚効果はさらに複雑になってくる。そこにはだまし絵が発展したような空間の「歪み」が感じられる。

近代になってキャンバスやパネルが一般化して、描かれた風景をどこへでもかけ替えられることが可能なった。そうして絵画は厳密な意味での特定の場所という根を失った。現実と架空の場を行き来しながら描く原田の作品の面白さは絵画を歴史的に支えてきた「ここではないどこか」を描いた窓としての具象絵画のシステムを、軽やかに解体してゆくことにあるのだろう。実際の空間に提示することを前提として、原田がそこに歪みや捻じれを意図し、架空の窓を架空の窓らしく描き始める時、絵画はより場に根差した表現を伴う美術として力を発揮することができるようになるのではないだろうか。

全文提供:アートフロントギャラリー


会期:2013年5月2日(木)~2013年5月19日(日)
時間:11:00 - 19:00
休日:月
会場:アートフロントギャラリー

最終更新 2013年 5月 02日
 

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