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阪本トクロウ 展
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 6月 07日

copyright(c) Tokuro SAKAMOTO

阪本トクロウは1975年に山梨県塩山市に生まれる。1999年に東京芸術大学日本画科を卒業後、早見芸術学園日本画塾にて2001年まで学び、卒業後は国内外で数々の展覧会を開催し、アートフェアにも精力的に参加しています。

阪本トクロウの描く世界、それはふと懐かしさを感じる、のどかな日常の風景です。昼下がりの公園にたたずむ遊具、静かな湖面をすすむスワンボート、走行中の車から見える風景など、モチーフはどれもわたしたちに馴染みのあるものですが、一方で、彼の描く世界は、時が止まっているかのようで、または永遠に続くとも思える、まるで夢の中のような独特の非日常感が漂っています。

せわしなく流れる日々の中、いつもは通り過ぎるだけの場所に、ふと目を向けてみたことが誰にでもあると思います。視点を変えた瞬間に普段は見慣れたはずの風景が一変し、新鮮なものに見えたり、現実世界から自分だけが離れたような、浮遊感を感じる時、阪本の作品には、そういった場面に生じる心の揺さぶりがあります。画面に大きく取られた余白は、春曇りのような淡いグレーで表されることが多く、そこには描かれた場所の空気、におい、音までもが想像されるような心の映し場所が存在しています。大胆な構図は、色調の柔らかさによって静かにぶつかり合い、その境界線が観る人に安心と平穏な気持ちをも与えてくれます。

今回、阪本はこれまでのアクリル画とは手法の違う、銅版画での制作を試みています。少し強めのコントラストで配された線と面は、印象的なシルエットを浮かび上がらせ、その形が、わたしたちに、いつかどこかで目にしたような不思議な既視感を与えています。銅版画特有のインクが紙に押し付けられて出る、染み込むような色や、拭き残しによるニュアンスが、より一層作品に深みを持たせ、また、版上に細いニードルでひっかいたり、削ったりした線の集積が、「描く」ということに積極的に向き合った作家の時間を感じさせてくれます。今回の展示は初の版画作品展です。

※全文提供: キドプレス

最終更新 2009年 6月 27日
 

編集部ノート    執筆:小金沢智


日常風景を巧みな構図で描く阪本トクロウ初の銅版画展。筆跡の希薄な阪本のアクリルペインティングとは対照的に、ニードルの痕跡があらわな画面は新鮮である。とりわけ興味深いのは、大きな空間の取り方が特徴的な、湖畔を白鳥のボートが進む作品≪山水≫(2009年)。同名の「VOCA 2008」(上野の森美術館)出品作品を元としつつも、水墨を想起させる質感はアクリルには見出せず、より「山水」の名がふさわしいと感じた。阪本のペインティングはあたかも時が止まっているかのような様相を呈するのが常だが、銅版画はその時間がゆっくりだが動いているようだ。


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