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伊藤公象:秩序とカオス
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 6月 06日

作家ポートレート 画像提供:東京都現代美術館

≪アルミナのエロス(白い固形は…)≫1984年 東京都現代美術館蔵 撮影:内田芳孝

≪土の襞-青い凍結晶-≫207年 作家蔵 撮影:内田芳孝

東京都現代美術館では各時代の現代美術の動向を振り返り、その歴史的な意味を検証するために、長年にわたって活躍を続けるベテラン作家の個展を実施してきました。その一環として開催される本展では、日本を代表する作家として知られる伊藤公象の35年にわたる歩みをご紹介いたします。伊藤公象は土を素材にした陶造形で知られる作家です。1932年に金沢の彫金家の長男として生まれ、十代の頃に陶芸家のもとに弟子入りしましたが、その後は伝統の世界から離れ、美術という概念を問い直すような新しい表現を土を素材に追求してきました。ある時は土を凍らせ、ある時は乾燥による土の収縮や亀裂を創作に採り込むなど、自然現象を活かした独自の造形は早くから注目を集めました。1978年にはインド・トリエンナーレ、1984年にはヴェネツィア・ビエンナーレにそれぞれ日本代表として参加するなど、その活躍の場は国内を問わず海外まで広がり、土の造形のパイオニアとして高い評価を得てきました。本展は作家が所蔵する主要作品を軸に、各地の美術館が所蔵する代表作を加えて、伊藤公象の作品の全貌を紹介する回顧展です。土に本格的に取り組み始めた1974年から現在に至る約35年にわたる軌跡を通して、人為をできるだけ抑え、自然の作用を採り込む有機的な創作の世界をご紹介します。また、当館の広い展示空間にあわせて構成される大型インスタレーションや最新作の展示もご堪能いただけます。豊かな生命力を喚起してやまない伊藤公象の作品は、自然と人間との関係性が問い直される21世紀にあって多くの示唆をわたしたちに与えてくれるでしょう。

展覧会の見どころ
1.千変万化する土の表情を楽しむ
伊藤公象は様々な土を素材に使っています。現在、住んでいる茨城県笠間市の土、カオリンと呼ばれる磁土、鉄分の多い赤い陶土など、土の性質の違いによって完成作には独特の色や表情が現れています。また土をごく薄くスライスしたり、一回凍らせてから焼いたりなど伊藤自身が考案した技法によって、花びらのような繊細なエッジや美しい結晶模様などが生み出されました。豊かなバリエーションをもつ土の魅力を存分にお楽しみいただけます。

2.自然の生命力を味わう
作品の表面に現れる大きな亀裂(きれつ)、細やかな襞(ひだ)、柔らかそうな曲面は、作品がまるで生きて動いているかのような錯覚を観るものに与えます。伊藤公象は人間の作為をできるだけ排除し、土そのもの性質を引き出すような創作を目指しています。それは自然との対話から生まれた芸術とも言えるでしょう。私たちは作品に潜む自然の声に耳を澄ますことで、幼い頃にだれもが親しんだ懐かしい土の生命力に再び出会えるのです。

3.床一面に広がる作品
伊藤公象の作品は、無数の小さなパーツによって構成されています。作家自身がそれを一つ一つ床に置くことで作品が完成するのです。一つの作品には10から200個という多数のパーツが使われますが、どれも似ているようで、どれ一つとして同じものはありません。それが展示室の床にびっしりと広がる光景はわれわれの想像力を刺激し、観るものに強い印象を残します。壁にかけられた絵画とは異なり、私たちの足もとに大地のように広がる作品は、これまでにない新鮮で迫力ある鑑賞体験をもたらします。

4.待望された東京での初の大規模回顧展
国際的にも活躍する伊藤公象の作品は大型であるため、これまでまとまった形で見られる機会はありませんでした。今回、作家の代表作である大型インスタレーションが一堂に会します。当館の広大な展示空間に合わせて再構成されるインスタレーションは、こでしか見られない貴重なもの。ダイナミックな展示をお楽しみください。

※全文提供: 東京都現代美術館

最終更新 2009年 8月 01日
 

編集部ノート    執筆:小金沢智


陶造形の作家として今もキャリアを積んでいる伊藤公象の大規模回顧展。土を素材にその収縮や亀裂といった自然現象を取り入れた作品が空間に応じて展示されているが、注目すべきはその展示空間が企画展示室B2Fだけではなく、屋外であるパブリックスペースの中庭も含まれている点だ。ただ、アトリウムや中庭などのいわゆるホワイトキューブではない、床や壁面の素材が存在感を放つ空間で展示される作品と、白を基調にした空間に展示される作品の見え方はどうしても異ならざるをえない。後者を見てしまうと、前者のノイズが気にかかるのだ。そうは言っても展覧会が終止一貫したイメージを保つのは、何より作品の力による。


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