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丹羽良徳:時代の反対語が可能性
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2012年 10月 03日

首相官邸前から富士山頂上までデモ行進する, 2012, プロジェクトのドキュメントビデオ

首相官邸前から富士山頂上までデモ行進する, 2012, プロジェクトのドキュメントビデオ

このたび、AI KOWADA GALLERYでは、丹羽の一年ぶりの個展、またここ数年間の海外での作品制作を経て、 再び東京で制作を行った新作による「時代の反対語が可能性」展を開催いたします。 ここ最近ではロシア、スイス、トルコ、フィンランド、ルーマニアなど世界各地で作品制作を行う丹羽は、 国際交流基金によるロシア、イスラエルの巡回展 「ダブル・ヴィジョン–日本現代美術 (Double Vision: Contemporary art from Japan)」展に、 1960年代からゼロ年代に活躍する日本人作家約30名のひとりとして、 また最年少作家として選ばれるなど活躍の場を世界に広げています。

丹羽は、「今ここにいる私(もしくは私達)」のあり方とそれを取り巻く社会構造へ疑問をもとに、 公共空間でのパフォーマンスやプロジェクトを行ってきました。丹羽はそれらを「パフォーマンス」ではなく 「社会構造への介入を試みる行為」と呼びます。その言葉の通り、丹羽の作品からは演劇的な要素が一切排除され、 反復される単純な行為には我々の社会を根底から問い直そうとする作家の孤独な苦闘が写し出されます。

本展覧会では、昨年の大震災とその後の反原発の一時的な熱気と一体感さえも経てしまった 「出口の見えない」社会に挑んだ新作を展示いたします。作家自身の反原発抗議運動への参加経験、 そしてそれによって生じた問題意識をもとに制作された「首相官邸前から富士山頂上までのデモ行進する」(2012)。 経済活動と貯財を要とするこの社会において、それとは真逆の「どこまでお金を捨てられるか?」という問いを実践するため、無数の自動販売機へのコイン投入を繰り返すドキュメントビデオ。 その他新作のドローイングも合わせて展示いたします。この機会にぜひご高覧ください。

[作家コメント]
2012年。この当たり前の年号に文頭に置いたのは無根拠ではない。きっとこれが現在であり、最もいま重要な課題として立ちはだかっているからである。ぼくらは、最後まで現在から逃れることはできない。
現在進行形の新しき今日というのは、常に絶えず更新されうる状況を待ち望んでいるにも関わらず思考は混沌した状態から抜け出すことはできずに震え上がるばかりで、いっこうに明日にはいけないで、どうしても明日に見えていたものが今日にすり替わってしまったところで、ああしまった、と嘆くばかりではどうしよう もない。それは置いてきぼりを喰らった少年にように、健やかに見送るわけにもいかないので、冷や汗まじりに臭い吐露を投げ出すばかりかもしれないが、昨日だってそうだったに違いないと結論をどうにか穿り出す。奇妙なことに、世界の端っこであったと思われていた思想は既にもうどこにもない、ただただあるのは、とんでもない距離の向こう側に見える不確かな終焉だけであったのは、今も変わっていないように思う。
それはぼんやりと第三者を冒涜することが可能なこの世界の特徴なのであった。運命とは無縁に、街でふいにすれ違ったあらゆる他人のことを考えてみるといい、それはきっとぼくや私という主体性のマジックからは到底考えも及ばない世界を生きていると同時に、社会という同じ名前の幻想を生きると信じてやまない。それは「私には関係がない」という存在の極地から生存の可能性を破棄しつつも、同時に自分の生命維持の最前線を行くものである。それは自己保身と自己防衛の武器である。どう考えても、私とは関係 がないという極地から走り始めることが、この2012年の流行語大賞になってしまっても、ぼくは説明できるぞという気合いにも似た確信を持ちながらも、それはきっと私には関係がないというマジカルな部分として、切り捨てられることで会話不能となったところでようやく現前に姿を表すという矛盾した存在なの で、どうも会話にはならないらしい。つまり、それは観光と観光地という関係に集約される比喩的な存在であって、資本家と労働者という使役の関係ではなく、そこにあった空間と、無関係にどこからかやってきた客人の関係であった。その関係には、歴史や地理的ななんら一切の必然を感じられない。唯一関係を
繋ぎ止める根拠といえば、客人が客人となるための自主的な動機でしかないのであった。それはぼくにとって、非常に希望に満ちた関係のように思われる。

2012年 丹羽良徳


全文提供:AI KOWADA GALLERY
会期:2012年10月13日(土)~2012年11月17日(土)
時間:12:00-19:00
休日:日・月・祝
会場:AI KOWADA GALLERY
最終更新 2012年 10月 13日
 

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