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元田久治 個展
編集部ノート
執筆: 田中 麻帆   
公開日: 2012年 7月 05日

“Foresight-Stadium1” (Los Angeles Angels of Anaheim)
53×65.5cm キャンバスに油彩 2011年
Copyright(c)Hisaharu Motoda All Right Reserved.
画像提供:キドプレス

壁が打ち崩れ、雑草の生茂る廃墟の数々。誰も訪れなくなって、忘れ去られてから随分と時間が経っているようだ。よく見るとそれは、私達が見慣れた東京ドームの球場だったり、ローマのコロッセオだったりする。現実の風景を撮った写真をトレースしたかのような精緻なデッサンに、思わずはっとさせられる。遠く離れた各国の場所であるのに、キャプションがなければわからないほど、どの廃墟もよく似ている。これはつまり、時の経過のもとには全てが儚く平等、というヴァニタスの骸骨のような警句なのだろうか。時代の変遷とともに、野球中継の延長でドラマの録画に失敗することも少なくなり、また近年ではEUにおいて経済危機が深刻な話題となってきた。一瞬そんなことを連想してしまった。

しかし、これらの廃墟には、サイバーパンクのような終末的な景色とは違って、生茂る草や木々がある。ここから生える新芽は、また新たな生命を拡げていくだろうと思わせる。余計な物語的描写を排した無人の競技場と観客席は、観る人によって生み出される多種多様なドラマに、新たな希望を託しているのかもしれない。

最終更新 2015年 10月 21日
 

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