ダヤニータ・シン:ある写真家の冒険 |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2011年 10月 27日 |
資生堂ギャラリーでは、2011 年10 月22 日(土)から12 月18 日(日)まで、インド出身で同地を活動の拠 点とする女性写真家、ダヤニータ・シンの日本初個展を開催いたします。 これまでに、イギリスの出版社・シュタイドル等から数々の作品集を出版し、2003年にはドイツ・ベルリンのハ ンブルガー・バーンホフ現代美術館、2010年にはスペイン・マドリードのマプフレ財団で個展を開催、2011年に はフランス・パリのポンピドーセンターで開催された「パリ―デリー―ボンベイ」展、第54回ベネチア・ビエン ナーレのアルセナーレに出展するなど、欧米を中心に活躍しています。 ダヤニータ・シンは、1961年インド・ニューデリー生まれ。1980年から86年まで、アーメダバードの国立デザ イン大学で学び、1987年から88年まで、ニューヨークのICP(国際写真センター)でフォト・ジャーナリズ ムとドキュメンタリー写真を習得しました。その後、フォト・ジャーナリストとして様々な雑誌や新聞のための 仕事をしています。 彼女の初期の作品は、世界的に有名なタブラ(北インドの太鼓の一種)奏者、ザキール・フセインの写真集〈1986〉、 やインドの第三の性と呼ばれている一人のユーニック(去勢された男性)の生活を追った作品「MySelfMona Ahmed」(私自身 モナ・アフメド)〈2001〉などドキュメンタリーの作品で知られています。その後、カルカッタ の女性たちの肖像を撮った「Privacy」(プライバシー)〈2003〉、工場を撮影した「BlueBook」(青い本)〈2009〉 など、テーマに基づいた作品を制作し、そのつど本(作品集)を出版しています。彼女にとって出版物の制作は 展覧会と同じように重要であり、作品の見せ方を模索してきました。 作品を提示する理想的な方法として、彼女は2、3年前から冒険的な試みを始めています。その方法は、撮り集 めた写真のなかから、彼女なりの関係性を求めて写真を組み合わせることによって新たな物語を紡ぐ手法で、写 真の1枚1枚をイメージとして捉え、それらを組み合わせてグループで見せることによって1つの作品として成 立させます。彼女は文学に造詣が深いこともあり、小説家が自分の経験や記憶、空想を取り混ぜて作品を書くよ うに、ドキュメンタリーとして撮られた写真からフィクションを作り出すことを試みています。しかし、自分の ストーリーを鑑賞者に押し付けるわけではなく、作品を見る人たちがそれぞれに個人的な解釈をしてもらうこと によって写真に広がりをもたせたいと思っています。 本展では、新作「HouseofLove」(愛の家)と未発表の作品「AdventuresofaPhotographer」(ある写真家の冒 険)の2つのシリーズを展示します。「HouseofLove」は、撮りためた写真からフィクション(物語)を生み出 す方法を本格的に試みた作品で、小説のように写真をいくつかの章に分け、一つの大きな物語を形成しています。 「AdventuresofaPhotographer」は、これまで彼女が制作してきた複数のシリーズからそれぞれ代表的なイメ ージを選び並べるという回顧的な要素を持つとともに、現在の視点を加えて自らの作品を再編集するというシリ ーズです。写真のイメージと共に「彼女」を主語としたフィクションの文体で、これまでの写真家としての道程 を自らが書き下ろしたテキストと合わせて展示します。彼女のキャリアの重要な断片が新鮮な作品としてあらわ れる作品です。 彼女自身の写真(ドキュメンタリー)の境界を越えた物語(フィクション)を作り出すという、ユニークな方法 を駆使する写真家、ダヤニータ・シンを紹介する展覧会です。 *展覧会に合わせて、ダヤニータ・シンが来日します。 ダヤニータ・シン (Dayanita Singh)略歴 主なグループ展 出版物 ※全文提供: 資生堂ギャラリー 会期: 2011年10月22日(土)-2011年12月18日(日) |
最終更新 2011年 10月 22日 |
インド生まれの写真家による日本での初個展。かつて発行された作品集ごとに写真を展示し、写真家としての活動の過程を振り返ることができる。
旅の様子をまとめた小さな作品集や、去勢された男性を撮り続けた写真、貧困層を撮り続けてきた写真家が改めてインドの富豪をその家を撮って生み出した作品、青い光が美しい風景をポストカードにしてまとめた本などに加え、ムガール帝国の皇帝の建てたタージマハルになぞらえたタイトルの作品では、展示会場では暗闇の中の光が奇麗な写真を楽しみつつ、別室にある作品集には写真を組み合わせて書かれた架空の物語も一緒に掲載されている。
エキゾチズムの視点を受け入れつつ、インド人としてのリアルさを追い求める姿が観られる展覧会だ。