編集部ノート
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執筆: 平田 剛志
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公開日: 2011年 10月 09日 |
天気というのは、人の感情や気分を左右することがある。晴れた時は気分がよかったり、雨が降れば気分が沈んだりする。 中島麦の『悲しいほどお天気』と題された今展では、ギャラリーは「お天気」に恵まれた日のように晴れやなか色彩で満たされている。その印象を強くするのは、ギャラリー壁面に描かれたダイナミックな壁画である。壁全面に描かれた色彩の重なりやストローク、大胆な色彩形態は、中島の絵画が持つ晴天的な色彩のポテンシャルを引き出した絵画空間として結実している。 小スペースに上下2列に展示された壁画作品と同じ山型の壁面を模したミニチュアのようなキャンバスの小作品群は、壁画に至るまでのドローイングとして制作されたようだ。だが、そのバリエーションの豊富さ、小さいながらもスケール感のあるストロークが、壁画とは異なる色彩の魅力を堪能させてくれる。 見逃してはならないのは、映像作品《悲しいほどお天気 3383》だ。これは、中島が2011年夏に東北を旅した写真が1秒8コマのスライドショーとして制作された映像作品である。映されるのは電車の車窓の景色、夕日、食べ物、人、花火、ねぶた祭り、震災の光景だ。写真はすべて中島が実際に旅した時系列で並べられ、まばたきをすれば、見逃してしまう速度で次々と流れていく。鑑賞者は、一瞬で過ぎる写真のシークエンスから中島の東北の旅に同行しているような気になり、見終わる頃には夏の日差しと東北の風景が印象づけられる。 本作品は、もともと作品制作のためではなく、個人的に撮りためた写真を映像化したものだという。絵画を描くための素材として撮られた膨大な写真群もまた中島にとっては日々のドローイングなのだろう。 映像と壁画・絵画というメディアの違いはあるが、ドローイングを主体とした制作を行う中島の制作姿勢は揺らいでいない。晴れても曇っても雨でも、旅をし、描き続ける中島の作品には、天気の移り変わりのような、さまざまな表情が見え隠れすることだろう。
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最終更新 2011年 10月 09日 |