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借りぐらしのアリエッティ×種田陽平
編集部ノート
執筆: 平田 剛志   
公開日: 2011年 9月 18日

特別展 「借 りぐらしのアリエッティ」
Copyright©2010 GNDHDDTW

『借りぐらしのアリエッティ』とは、メアリー・ノートンのファンタジー小説『床下の小人たち』を原作としたスタジオジブリ制作によるアニメーション映画である。企画・脚本を宮崎駿、監督は米林宏昌が手掛け、2010年7月に公開後、興行収入92.5億円を超え、2010年度興行収入邦画第1位となった大ヒット作である。

主人公は、14歳の小人の少女・アリエッティ。郊外にある古い屋敷の床下で、電気やガス、砂糖など人間の生活品を借りながら、両親とともに密かに慎ましく暮らしている。アリエッティたち小人の世界には人間に見られてはいけないという掟がある。もし掟を破り、人間に見つかれば、引っ越さなければならないのだ。だが、アリエッティは、屋敷に病気療養のため、引っ越してきた少年・翔に姿を見られてしまう・・・。

ストーリーを辿ると、小人と人間をめぐるファンタジーである。だが、人間のものを借りてきて生計を立てる小人たちの「借りぐらし」は、生活における知恵や工夫が見られ、一般的なファンタジーとはかけ離れた現実感がある。魔法を使えない小人たちは、どうやって食料を入手し、生活を営むのか。アリエッティ一家の暮らす住居など、リアルに描き込まれた背景画が生活感を伝え、映画美術の見どころが多い作品である。

だが、本展はただのアニメーション映画の展覧会ではない。映画の背景画を何百万枚と展示するのではなく、実際に作ってしまったのである。この美術セットを手がけたのが美術監督・種田陽平である。種田は映画版では美術を担当していないが、本展のために、実写映画を思わせる大規模な美術セットを作り上げた。

会場に入ると、小人のアリエッティ家族が住む家が忠実に再現された空間が、私たちを映画の世界へと誘う。本展のために結集した美術スタッフによる仕事は、住居の柱から小道具まで1つ1つが映画の世界観を再現している。例えば、天井を這うゴキブリが動く様はリアルで鑑賞者を驚かせるし、居間やキッチンの家具、食器も生活感が感じられリアルだ。まるでアミューズメントパークのように、鑑賞者をワクワクさせる仕掛けが楽しい。

展覧会後半部は、セットから一転して種田陽平のこれまでの仕事を概観する資料展示となっている。種田がこれまで映画美術を手掛けた『スワロウテイル』(1996)、『不夜城』(1998)、『キル・ビルvol.1』(2002)、『フラガール』(2007)、『悪人』(2009)などの写真パネル、模型、図面などが展示され、映画の世界観がどのように作られたのかが見えてくる。

最後は、『借りぐらしのアリエッティ』のために宮崎駿が書き下ろしたストーリーボード、絵コンテが展示され、アリエッティの世界観が再び展開される。企画の早い段階からキャラクター設定、世界観が造形されていたことはファンには興味深いだろう。

全体を通して、映画ファンだけでなく、美術セットは彫刻や立体、建築を手がけるアーティストに参考になるだろうし、絵コンテやストーリーボードは画家やイラストレーターなど絵が好きな人には楽しめる展示だ。映画の展覧会は、ポスターやスチル写真などによる資料展示が多いが、ここまでダイナミックな展示を楽しめるのは貴重な機会だ。

映画美術は、映画のなかで生き続けるが、制作後は消えてしまう。展覧会もまた、会期が終われば展示作品は、再び元の所蔵者のもとへと帰っていく。つまり、美術セットや展覧会は「借りぐらし」なのだ。ただし、アリエッティら小人の世界の掟と異なるのは、映画や展覧会は人に見られるものだということだ。作品が引っ越してしまうその前に、小人になった気持ちで知られざる映画の舞台裏を覗き込もう。

最終更新 2015年 11月 04日
 

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