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gaju&Shishi Yamazaki:ベッドに帰るように Like going back to
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2011年 9月 09日

撮影:松下エリカ | 画像提供:SUNDAY ISSUE

造形作家gajuと、マスク作家Shishi Yamazaki(しし やまざき)による企画展。


会期: 2011年9月3日(土)-2011年9月11日(土)
会場: SUNDAY ISSUE

最終更新 2011年 9月 03日
 

編集部ノート    執筆:石井 香絵


撮影:松下エリカ
画像提供:SUNDAY ISSUE

撮影:松下エリカ
画像提供:SUNDAY ISSUE

    会場には一台のベッドが置かれ、脇には花びんに一輪の花のオブジェが飾られている。天井にも沢山の花のオブジェが吊り下げられ、眠りの時間に降りてきた夢の世界を表しているかのようだ。「ベッドに帰るように」は造形作家gajuと、マスク作家Shishi Yamazaki(しし やまざき)による「眠りにつく瞬間のそれぞれの温かな孤独」をテーマとした企画展。オープニングイベントではTORANOKO Performing Arts Companyに所属する6歳から20歳までの少女たちが、Shishi Yamazakiのマスクを身につけパフォーマンスを行っている。実際に舞台空間であっただけに場内の照明の入り方は本格的で、暖色と寒色の光がベッドの中の温かくも孤独な時間を効果的に演出していた。
    gajuは熊本在住の造形作家。主に粘土を素材としている。もともとフラワーデザインの勉強をしていたが、ある時花を切ることに抵抗を覚え、本物の花でなくても似たかたちを自分で作れば良いと考えるようになった。やがて表現の対象を花に限定しなくなり、今では動物のオブジェをはじめとする多彩な表現形態を展開させている。だがgajuの作品で最も多く登場するモチーフはやはり花であり、この作家独特のものの見方を反映したモチーフもまた花であるようだ。
    花びんに活けられた一輪の花は、天井の花々を仰ぎ見るようにして置かれている。gajuによれば、花びんの花はベッドに眠る人と同じように、天井の花に憧れているのだという。しかしよく見ると、花びんの花は開花したばかりのように新鮮なかたちをしているが、天井の花は多くが枯れかけていたり花びらが開き過ぎたりしている。一般的にあまり旬とはいえない、鮮度の落ちた花を憧れの対象に掲げていることになる。gajuにとって枯れた花とは、サビたものと同様にそれ自体が魅力あるモチーフでありながら、自分らしく年を重ねてきた人やものの象徴でもあるからだ。造花は普通は枯れないことが長所だが、彼女はしおれた花弁を粘土で一枚一枚作りあげ、経過することによって滲み出る美しさを表現しようとしている。彼女自身も変わらない自分を生きることで枯れていきたいのだという。
    gajuの作風は装飾的な印象が強いため、空間デザインやアクセサリーとしての需要が多く、また人気もある。しかし作り手としての価値観がより純粋なかたちで表れるのは、今回のようなギャラリーの展示空間なのかもしれない。本展はgajuの経年変化を愛でる趣向が、彼女の一見華やかで可愛らしい作品に潜む強度の所以であることを示している。


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