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礒谷権太郎:Keep Smiling!
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 2月 12日

copy right(c) Kentaro ISOTANI / Courtesy of art project frantic

礒谷権太郎の「作家的な語彙」の中で、主となる二つの言葉は「乱暴」と「不条理」である。彼は「イージで、クイックな彫刻」(「モデリング・ワーク」)を宣伝する。つまり素材と制作プロセスを隠さない彫刻の提案である。それはさまざまなごみをちりばめた泥、器械油のグリース、シリコンから作られた作品である。磯谷は「ホームレス」、「ジャンキー」、「アウトサイダー」などのアイデンティティを試してみる。遠慮なく作品の形をとった意見を吐きかける「糞のような男」というイメージである。そこには、礒谷の批評的なスタンスにおける活力の原点が隠されている。 それと同時に、礒谷は想像上で奇跡または軍艦の対象、聖性と直面する作家である。礒谷は自身の彫刻を「無教養でアルコール依症状、孤独で妄想癖のある男が、たまたま教会で目にした宗教彫刻に感化されてその日を境に熱狂的に作り始めた作品のようなもの」だと言う(それは彼の「St. A・・・Z」(聖者A・・・Z)シリーズの基本概念である)。魅了/狂気/驚きと、大胆かつ洗練されていないフォームの総合によって、礒谷の作品は反語性、皮肉性または自己批判を持つ。それと同時に、魅了(精神・表現の高尚)と泥(下等な素材)の衝突は、みる者を美術と文明の基本的な問題に対峙させる。つまり観客は「原始的な/幼稚な/狂気」の想像性とファイン・アート、「自滅衝動と創造」、または「上品の中の荒っぽさ」、「不潔の中の聖」といった事柄に向かい合わされる。 礒谷のモデリング・ワークは形がないもの(泥など)に形を与えるが、それを行いながら「無形」への反転の可能性を感じさせる。しかし、彼の創造は「形」から「無形」への行為も示しているのである。つまり、礒谷は雑誌から言葉を切り取り、それを繋ぎ合わせて(ほとんど)理解不能かつ(ほとんど)「無形」の文書を構成するのである。「“There You Are .15% MIDNIGHT」、「I realize I was. The original」、「Wherever You Go, philosophy ANTICIPATED」、「ONLY THIS TIME Understanding Everything」といった表現は、いわば「汚れているパロール」、「あまりにも物質に接近した文字」であるが、まだ幾つかの解釈のためのスペースを孕んでいるのである。 「Keep Smiling! (God Loves Idiots!)」展は、礒谷権太郎の核心的なパラドクスを展示している。つまり、「Keep Smiling!」は心酔または無限の幸せへとの呼びかけるであるが、「God Loves Idiots!」はこれをキャンセルし、観客を奮起させる。この表現は「自殺的」で、実用主義的で、恐ろしく、それでいてユーモアがあり、チャーミングで、みる者を落ち着かせもする。 このような礒谷の「皮肉的な-ロマンチックな」矛盾を磨くために、三つの例を示す。 第一の矛盾。今回は「St. A・・・Z」シリーズの他に、ペットボトルと泥から作られた「Comet Sisters(ほうき星の姉妹)」と「Comet boys(ほうき星の男の子たち)」の展示も行う。狭義では、ほうき星とは「太陽を飛び回りながら、光っている「尻尾」を持つアイスと泥の塊」だということを忘れてはいけない。それにしても、驚くべきことに人はこの燃えているアイスと泥を見ると願いをかけ、或いはキスをするのである。 第二の矛盾。礒谷は「Art Project Frantic」で作品を発表する。「Keep Smiling! (God Loves Idiots!)」展のためには、これ以上に相応しい名を持つ画廊はないかもしれない。「Frantic」とは、「急ぎながら作られたもので、あまりはっきりしていないもの」を指す。つまり何かラフかつ粗野なものが、同時に「わくわくまたは心配する時の、非常に感情的な状態で作られたもの」であることも意味する言葉である。 第三の矛盾。昼間、礒谷と電話は繋がらない。なぜなら彼は巨大な会社に勤めていて、超高層ビルの地下深くにいるのだから。接続なし、個人電話なし、光なし。作家はコーポレーションに閉じこめられた。ところで、この作家の日常的な仕事は、会社の地下室へ下がってくる書類を巨大なシュレッダーにかけることである。彼の義務は、「会社の文字」を泥にまで粉々に裁断することである。つまり、経済的な取引の記録を物質化させることである。礒谷は不要な雑誌が紛れ込んでいるのを見つけると、この雑誌を家に持ち帰る。夜間そこから文字を切り取って、彼の「批評的な笑顔」を持つ彫刻のための不条理的なメッセージを作ってゆく。
関連イベント
ギャラリートーク:「泥、ノイズと言語」
礒谷権太郎(彫刻作家)、森下泰輔(ノイズ作家)、ロディオン・トロフィムチェンコ(キュレーター)は「彫刻と音楽」、「泥と言語」、「ノイズとコミュニケーション」、展示空間と発表される視覚・音楽作品についてトークする。
時間:2009年3月14日(土)18.00~20.00
※全文提供: art project frantic

最終更新 2009年 3月 05日
 

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