吉野英理香:ラジオのように |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2011年 6月 15日 |
吉野英理香とはだれか。1989年から首都圏の路上や観光地などにカメラを武器に出没し、子供、動物、通行人の過剰な相貌や洋服の柄などを、モノクロのスナップ写真の形式により、捕獲してきた人物。90年代半ばから発表しはじめる。不届きで危険な誘拐者、密猟者、検閲官に似ており、写真的に鋭利で素速い、恐るべき視力の持ち主だ。昨年1月からふと思い立ち、モノクロを打ち止めにしてカラーに替え、写真集『ラジオのように』をまとめた。被写体が一変したわけではないが、モノクロでは目立たなかった、曖昧で不活性な何かが前面に出てきた。あるいは歩行に緩やかな減速が見られる。この写真集の魅力は、これらのことと関係がある。つまり、曖昧で、不活性で、減速していくことの魅力だ。それは、「モノクロのスナップ」がもたらすスタイルや、ジャンル(路上写真、動物園写真、子供写真・・・)の約束を忘れてたたずむところから生まれた。本当に何ものにも代え難い、不安定な自由がここにはある。 写真の日にちなみ、6月は各地で写真月間として多数のプログラムが開催されます。 Port Gallery Tでは、6月20日(月)より、この春に出版された、吉野英理香の写真集『ラジオのように』(発行:OSIRIS)の個展開催が決定。出版後初めて、出版記念ともなる特別展として企図しました。 吉野英理香は、1970年埼玉県本庄生まれ。1994年に東京綜合写真専門学校を卒業し、これまでモノクロームプリントのスナップショットを、国内のみならず海外の展覧会で発表を重ねてきた写真家です。 都市を形成しつつ都市に紛れる「人」そのものにカメラを向け、次々と表沙汰にしていくような写真群は、戸惑いつつも目を逸らせない強い印象を放っています。鋭利なエッジと混沌さが混在する写真画像は、見つめる私たちに向けられた鏡のようで、写真でしか捉えられないイメージを獲得してきました。 本展「ラジオのように」は、カラーネガで撮影、カラープリントによる初めての展覧会となります。 モノクロプリントと同様、言葉に転置不可能なイメージの表出は、吉野独自に脈々と流れる息づかいとも言えます。しかし、作家がカラーのネガフィルムを選んだことは非常に興味深い地点であったことは言うに及ばず、写真集のページをめくるごとに確信していきます。写真は、即興性がより強固となり、内省や思考なり一寸の隙も与えない画像の登場は、写真を読むことへの新たな境地へ連れ去ってくれるからです。 「分からなさ」のようなものと「記録」する術(すべ)との分かち難い密度に、息を詰めて凝視していることに驚きました。このような写真を、いま、渇望していたことに気付かされます。 会場では、綴られた写真に呼応しながらも、静かに、より長く写真と対話いただけるよう、作家セレクトのオリジナルプリントを展覧します。ささやかに、でも確かに存在するもの、光景に、一人でも多くの方に触れていただきたいと思います。 吉野英理香(Erika Yoshino) 写真集:吉野英理香『ラジオのように』 全文提供: Port Gallery T 会期: 2011年6月20日(月)-2011年7月2日(土) |
最終更新 2011年 6月 20日 |