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conditioned air 調律された写真
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2011年 6月 13日

古屋和臣《My Sputnik》
画像提供:アキバタマビ21
Copyright© Kazuomi Furuya

アキバタマビ21第10回展覧会、多摩美術大学出身の新進気鋭の写真家5名によるグループ展。

この展覧会に参加しているアーティストは、わたしたちの時代の同じ空気を呼吸している。
それは21世紀都市の空気であり、その空気をとおして光がカメラのなかへ入ってくる。
定着された像が、呼吸をはじめる。色と影がふたたび、空間のなかへ滲み出してゆく。

“時の雰囲気” や“時代の精神” という言い方は、写真が生まれた世紀と結びついているだろう。
パリやベルリンを舞台に沸き起こった大衆社会を背景にして、スピリットを代弁するモードやスタイルが語られる時代、写真もその中核をになった表現だった。同じことが21世紀にも言えるかどうかとなると、意見は分かれるだろう。
時代に共通するようなエスプリやガイストはあるのだろうか。
仮にそうだとして、表現のみならず技術的にも多様化した写真のなかに、それはどのように姿を現すのだろうか。

放射能という、直接目には見えないものが日本の大気を覆い、世界中の空へと拡散している時代。誰しもが今日の空気について考えざるをえないという、異常が日常化した時代。
あらかじめ調整されてしまった空気、コンディションド・エアー。
だがそんな日常を成り立たせている条件を、写真は独自のやり方で再調整するのだ。
空気のなかへ溶け込んだ精神はきっと、それぞれの色と影をとおして現れてくるだろう。

-「今日の空気」 港千尋

参加作家
飯沼珠実(写真作家、多摩美術大学大学院2008年修了)
金瑞姫(東京芸術大学大学院在籍、多摩美術大学2009年卒業)
佐藤紀行(写真作家、多摩美術大学大学院2010年修了)
土田祐介(多摩美術大学共通教育助手、多摩美術大学2005年卒業)
古屋和臣(多摩美術大学情報デザイン助手、多摩美術大学大学院2004年修了)

展覧会WEB サイト
http://www.idd.tamabi.ac.jp/art/exhibit/conditioned-air/

関連イベント
・ オープニングイベント:ギャラリーツアー&レセプションパーティー
2011年6月25日(土)18:00〜20:00

・ トークショー:「写真表現の現在」
第1回—2011年7月3日(日)17:00〜19:00
港千尋(写真家)・伊藤俊治(美術史家)・佐々木成明(映像作家)・勝又邦彦(写真家)、出展作家
第2回—2011年7月24日(日)17:00〜19:00
全出展作家(司会:佐々木成明)

※全文提供: アキバタマビ21


会期: 2011年6月25日(土)-2011年7月24日(日)
会場: アキバタマビ21

最終更新 2011年 6月 25日
 

編集部ノート    執筆:田中 みずき


古屋和臣《My Sputnik》
画像提供:アキバタマビ21
Copyright© Kazuomi Furuya

    スナップショットでは捉えられない瞬間というものが、あるのかも知れない。本展を観ていると、そんな思いに駆られる。展覧会場に並ぶ写真は、現場で場を共有してフレームに切り取られる一瞬では無い。第三者からの眼差しによる、「日常生活」の風景の再発見と言えるだろう。日常の中に、こんな場面があったのか、と、驚かされる。
    参加作家・古屋和臣の、どこかの家族らしき人物たちを真上の空から撮った写真には、地面に芝や桜の花びらが散らばる。芝の茂みの塊や、地面に散らばる花びらの一枚一枚と、一家族の集りとが、全く等価に「一単位」として撮られ、超越した眼差しを感じさせる。母親の腕に抱かれて上空を見ている赤ん坊のみ、どの作品でも写真を正面から見据えているのが面白い。いつの間にか、超越して観ていたはずの鑑賞者自身も、赤ん坊に観られることによって、その「一単位」の中に取り込まれてしまう。
    このほか、街中の建築物等の色彩や構造を、建物の垂直の線で区切る画面構成のようにして切り取った飯沼珠実の写真に日常生活の中にこんな風景が切り取り得るのかと驚かされたり、置かれたガラスコップの光の屈折によって一部が白く抜けて見える様子をカメラで捉えた金瑞姫のモノクロ写真、また、光の集積によって写真上では白く抜けたパソコンのディスプレイ画面を見つめる人々を撮影した土田祐介の作品、白色と黒色が交互に移る映像作品で画面に光を感じさせる作品や、黒い背景を背に柔道をする人物の動きをシャッターを開きっぱなしで撮ったであろう写真で動きを取り込む佐藤紀行の写真が並び、日常の中で見ているはずで観ていなかったものが鮮やかに切り取られている。
    ちょっと離れたところからのほうがリアルに現実を捉えられてしまう現代の眼差しが、そこには写しこまれているのかも知れない。


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