吉田重信:臨在の海 |
編集部ノート |
執筆: 平田 剛志 |
公開日: 2011年 5月 21日 |
ドア越しから見えるのは暗い室内を埋め尽くす大量の菊と1か所だけ灯る赤い光。42年の歴史に幕を降ろす立体ギャラリー射手座では、最後の展示となる吉田重信の個展「臨在の海」が開催されている。 福島県いわき市在住の吉田は展示室にいわき市で採集した砂を敷きつめ、1000本の菊を差したペットボトルを展示空間に埋め尽くした。大量の菊とその香りが作り出す厳粛で静穏な空間は圧倒的である。 暗闇の展示室左奥に灯る赤い光は、人によっては震災や死の恐怖、不安を喚起させるかもしれない。だが、赤い光は生や希望を照らす光とも考えられないだろうか。光と闇と菊と香りが紡ぎだすのは、震災の被災者への鎮魂であり、42年間の活動を終えるギャラリーへの追憶の空間である。「臨在の海」の波打ち際で見える赤い光を、いまは希望の光として受けとめたい。 |
最終更新 2015年 11月 02日 |