| EN |

MAMプロジェクト014:田口行弘
編集部ノート
執筆: 田中 麻帆   
公開日: 2011年 5月 14日

《モーメント・パフォーマティブス・シュパチィーレン》インスタレーション、窓から出るところ(ヴァルデマー通り、ガレリエ・エアー・ガルテン)2008年|クロイツベルグ、ベルリン|撮影:田口行弘|画像提供:森美術館

    「フレンチ・ウィンドウ展」と同時期開催中の若手アーティスト紹介プロジェクト、MAM PROJECT 014では、田口行弘の映像作品やその制作過程のドローイング、メイキング等を見ることができる。映像作品《モーメント: パフォーマティヴス シュパチィーレン》(2008年)には、数枚の板きれを徐々に移動させながら1コマ1コマ写真に撮影し、その写真を連続させることで動いているように見せるという、シンプルなストップモーション・アニメーションの手法が用いられている。とはいえ、板の動きはまるで生命を宿しているかのようにリズミカルで生き生きとしており、地下鉄駅の壁を斜めに這い上がったかと思うと、階段を上がり街中を尺取り虫のように進んで行く。時には公園でテーブルセットの形に組み上がり、等間隔に離れたベンチを橋渡しして、人々のピクニックや憩いの場を作ってくれる。
    昨今では誰もが映像を加工・編集し気軽に公開することもできるが、田口のメイキング映像が流れる展示室に入ると、まるで建築物の作業現場のような工程が見られ、大きな板を何度も動かしていくのに費やされた人の手と作業の途方もなさに気付かされる。(本展の一環として六本木ヒルズ周辺で制作され、現在も進行中の作品。)床板や椅子など、普段見慣れた「もの」がひとりでに自由自在に動くさまは観者を楽しませ活気づける。一方、その裏に感じられる労力の蓄積は、人々に遊び場を提供してくれた板たちと同じように、協力して新しいものを構築する人間のエネルギーについて、再び思い至らせる。それはきっと、いまの私達に最も必要なものだ。

最終更新 2011年 5月 13日
 

関連情報


| EN |