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キム・テクサン:風の色
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2008年 11月 20日

copy right(c) Kim Taek sang. Courtesy of taguchi fine art.

キム・テクサン(金澤相)は1958年韓国ソウル市生まれ。1985年に中央大学美術学部を卒業し、1987年に弘益大学大学院美術研究科修士課程を修了。現在高陽市在住。ソウルを中心に韓国内外で作品を発表しています。

モノクローム絵画の伝統
韓国では1970年代から活発化したモノクローム絵画が、現代美術における主流のひとつとして、現在も重要な傾向を形成しています。1990年代に作品を発表し始めた世代には欧米での留学経験をもつ作家も多く、現在はモノクローム絵画も素材や技法において多様な展開を示しています。キム・テクサンは留学経験こそありませんが、こうした同世代の作家との交流を通し、韓国人作家としてのアイデンティティーを探るとともに自らの思想を深め、作品のオリジナリティーを確立すべく模索してきました。

自然の痕跡
画家として捉えれば、キム・テクサンはカラリスト(色彩主義者)であると考えられます。しかし彼の作品をより深く理解しようとするならば、その制作プロセスを知る必要があります。 キム・テクサンはその制作において、筆もペインティング・ナイフもパレットも使いません。「水で描く」と彼は微笑みますが、水と重力、自然に描かせると言ったほうが正確かもしれません。まず、彼は特別に用意した長方形のプールにキャンバスを浸し、アクリル絵の具を溶かした水を注ぎます。注がれた水はその痕跡をキャンバスに残しながらゆっくり蒸発していきます。季節や気候に応じて、水は様々に異なる模様を残します。この制作過程において、作家はただひたすら待つのみです。そして適当な時期を見はからって排水し、キャンバスを乾かします。この工程を何度も繰り返し、キャンバスに色の層を幾重にも重ねていくのです。

時間の絵画
こうして制作されるキム・テクサンの作品は水の痕跡そのものであり、樹木の年輪と同様、時間の痕跡でもあります。彼がなすべきことは、時の流れが痕跡というかたちで自らを現わす環境を整えることに尽きます。

自然の色彩
キム・テクサンにとって色彩を加えることは元来、時の流れ、季節あるいは自然をキャンバスの上に可視化するために必要とされる手段にしか過ぎません。透明な水だけではそれらを私たちの目に見えるかたちにすることができないからです。そしてそこで便宜的に使われる色彩は、自然界に存在する現象から選ばれています。夕日の赤色、水や空の青色、樹木の緑色、太陽の黄色などです。時間をかけてゆっくり制作される彼の作品は、時間を経ることで得られる成熟や熟成という感覚や観念を見る人に与えるような色彩、柔らかで優しい色彩に覆われています。 2006年にはスイスとフランスを巡回した韓国現代美術を紹介するグループ展「シンプリー・ビューティフル」展に出品、また現在アイルランド、ポルトガル、香港を巡回中の「韓国現代美術ーTo have or to be」展にも出品するなど、現代の韓国美術を語るうえで欠かせない重要な作家のひとりとなっています。 タグチファインアートにおける今回の展示は、彼の日本で2度目の個展となります。前回は赤い色彩を中心とした作品で展示が構成されましたが、今回は彼が最近試みている複数の色彩を用いて制作した虹色の作品が出品されます。

※全文提供: タグチファインアート

最終更新 2008年 11月 15日
 

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