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日本人の心象風景 富士山は古来より特別な山として愛されてきました。ある時は信仰の対象として、またある時は日本のシンボルとして、人々は美しい稜線をもつその山にそれぞれの思いを託してきました。富士山の姿は変わらずとも、それをまなざす人々の心情や時代情況によってこれまで多様な富士が生み出されてきました。本展では幕末・明治の富士、外国人から見た富士、万博と富士、戦中の富士、現代美術の富士など、時代とともに千変万化してきた富士の姿を写真をはじめとしたさまざまな印刷物を通して概観します。
19世紀半ばにフランスで発明された写真は幕末期に日本に伝わりました。その意味で幕末から現在にかけて数多く撮影されてきた富士の写真は、近代日本を写す鏡であり、近代日本人の自画像でもあるといえます。本展は富士山近郊に位置するIZU PHOTO MUSEUM で継続していく「富士から見る近代日本」シリーズの第1弾となります。〈出品点数:約300点〉
出品作家(敬称略)/作品 下岡蓮杖・ F. ベアト・ R. スティルフリード・ H. G. ポンティング・ A. ファサリ・ 日下部金兵衛・ 水野半兵衛・ 鈴木真一・ 玉村康三郎・ 岡田紅陽・ 小石 清・ 濱谷 浩・ 東松照明・ 英 伸三・ 森山大道・ 藤原新也・ 杉本博司・ 大山行男・ 松江泰治・ 野口里佳・ 『ペリー提督日本遠征記』・ 「イラストレイテッド・ロンドン・ニュース」・ 「写真週報」・ 絵はがき・ 幻燈ガラス原板・ 立体写真・ 伝単 ほか
ウィリアム・ハイネ「小田原湾」1856年 『ペリー提督日本遠征記』(1856年)に収録された挿絵には富士山の姿がいくつか確認できます。ペリー艦隊には写真師と画家が従軍しており、彼らは停泊した浦賀や横浜から富士山を観察しています。それまで信仰の対象であったこの山に、日本を訪れた外国人たちによって測量という近代科学のまなざしが注がれました。
玉村康三郎「人力車」1880年代 横浜写真は幕末から明治末にかけて、国内最大の貿易地となった横浜を中心に製作された手彩色の写真です。開港地を訪れた外国人写真師と彼らから写真術を学んだ日本人写真師たちによって日本の風俗や風景が撮影され、外国人旅客向けの土産物として数多く輸出されました。背景の書き割りや写真アルバムの表紙には頻繁に富士山が描かれていました。
土門 拳「防共富士登山隊」1938年(財団法人 日本カメラ財団蔵) 1938年、日独伊親善協会が主催となり「防共連盟親善富士登山」が行われました。同盟参加国の学生を中心として7カ国の代表60余名が参加しました。撮影は対外宣伝の場で頭角を現していた若き土門拳。写真にはインターナショナリズムとナショナリズムとが渾然一体となった風景が写し出されています。
岡田紅陽「神韻霊峰」1943年(東京都写真美術館蔵) 富士山を「富士子」と呼ぶほどに惚れ込んだ岡田紅陽は、生涯に40万枚近くの富士の写真を撮影したといわれています。本作は戦前、昭和天皇に贈られ、宮内庁を経て正式に献上された初の写真作品となりました。白雪に覆われた山頂に荘厳な光が射しています。
撮影者不詳「B29爆撃機と富士山」1945年 1944年から米軍による本土空襲は激しさを増していきました。B29爆撃機は富士山を目標に南方の基地から飛来し、その後日本の各都市に向かいました。富士山の上空を悠々と飛ぶ米軍機の姿は制空権がアメリカ側に移ったことを物語っています。
濱谷 浩「富士山放射岩、静岡・山梨県」1961年 1961年に濱谷が撮り下ろした富士山は自然讃歌とは一線を画した冷徹な眼で切り取られています。この写真が収められた写真集『日本列島』(1964年)には「人間は いつか 自然を 見つめる時があっていい」と書かれており、敗戦と60年安保後の虚脱を経験した濱谷が日本人ではなく、日本列島という自然そのものを見つめてきたことが示唆されています。
◎トークイベント「日本人と富士の病」 金子隆一(写真史家)×倉石信乃(批評家)×小原真史(当館研究員) 日時:6月19日(日) 午後2:30– 4:00 料金:無料(当日観覧券が必要です。) 定員:200名 参加方法:電話 055-989-8780
◎学芸員によるギャラリートーク 日時:毎週土曜日 午後2:15– (約30分間) 料金:無料(当日観覧券が必要) 申込み不要(カウンターの前にお集まりください。)
◎クレマチスの丘・同時開催 「東海道五十三次―広重から現代作家まで」 4月24日– 8月30日 ベルナール・ビュフェ美術館
「東海道新風景―山口晃と竹崎和征」 4月24日(日)– 8月30日(火) ヴァンジ彫刻庭園美術館
「育てる風土 伊豆ふるさと」展 4月21日(木)– 9月27日(火) 井上靖文学館
※全文提供: IZU PHOTO MUSEUM
会期: 2011年6月9日(木)-2011年9月4日(日) 会場: IZU PHOTO MUSEUM
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