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神戸ビエンナーレ2009
レビュー
執筆: 平田 剛志   
公開日: 2009年 12月 24日

    1年にいくつも開催されるビエンナーレはさまざまな場所で行われている。山で、里山で、川沿いで、そして都市で。だが、神戸港で、つまり「海上」で行われるビエンナーレはこれまで聞いたことがない。私たち観客は神戸港遊覧船ファンタジー号に乗り込み、海上クルーズによって作品鑑賞を行うのである。なお、誤解がないように付け加えれば、海面上に作品があるわけではなく、海上にある防波堤や突堤に作品が設置されているのである。私たちは船上から植松奎二、榎忠、塚脇淳の作品を海風とともに楽しむ。船上では唐突にダンサーがパフォーマンスを繰り広げ、船客たちを楽しませてくれるだろう。まるでテーマパークのようなクルージングには苦笑を禁じ得ないが、人を楽しませようとする過剰なまでのサービス精神は歓迎したい。特に、旅人には愉快な情景である。

fig. 1  植松奎二《螺旋の気配-宙》|画像提供:神戸ビエンナーレ2009 メリケンパーク事務局

    そして、船客たちがファンタジー号を降りて向かう先は、メリケンパークと兵庫県立美術館である。メリケンパーク会場では「アートインコンテナ」国際展という公募で選出された作家たちが貨物用コンテナ内に展示をしている。兵庫県立美術館では現代美術の第一線で活躍する榎忠、藤本由紀夫、児玉靖枝らが参加する招待作家展「LiNK-しなやかな逸脱」が開催される。このように、ビエンナーレ出品作品を公募と招待作家に分ける方式は、国際映画祭でよく見受けられるコンペティションと特別招待作品部門を持つシステムを参照したのかもしれないが、実にユニークな方法であろう。

    また、メリケンパークでの展示はコンテナを活用して行われるのも特色がある。展示内容はコンペによる現代美術作品以外に陶芸、写真、児童・学生絵画展、市民園芸アート展、いけばな未来展、ちぎり絵、書、障害のある人たちの展覧会に大道芸まで、およそ思いつくあらゆる表現活動を飲み込んでしまった過剰なビエンナーレである。この多様なアートフォームをコンテナというフォーマットにインストールしたことで、ビエンナーレとしては統一感がでているだろう。だが、同一フォーマットという発想は公平なものの、鑑賞という点では難がある。空いている時は見やすいが、混雑した時には見にくいのである。どれだけ入場者数を想定しているかわからないが、規模の大きさからすれば混雑緩和には配慮してほしいものである。さらに付け加えるならば「アートインコンテナ国際展」の作品はコンテナという特殊さからインスタレーション主体で、絵画や平面がほとんどないのも残念である。

    このような市民参加による祝祭的カオスを創出するビエンナーレでは公募と招待作家との質の違いは大きい。さらに、公募で選出された作家たちがコンテナで展示し、招待作家たちは美術館のホワイトキューブで展示ができるとは、格差社会らしい現状を浮き彫りにしてはいないだろうか。無名の若手作家にも狭いコンテナではなく、大きい海上、ではなく会場で展示をするチャンスを与えてほしいものだ。それが「ファンタジー」な発想なのか、リアルな話なのかは今後を待ちたい。


参照展覧会

展覧会名: 神戸ビエンナーレ2009
会期: 2009年10月3日~2009年11月23日
会場: メリケンパーク、兵庫県立美術館、神戸港

最終更新 2011年 9月 28日
 

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