編集部ノート
|
執筆: 平田 剛志
|
公開日: 2011年 1月 27日 |
料理や食べ物の味覚は目でも味わえるが、実際に食べて舌で味わうものだ。対して、絵画は食べられないが、目に見えたものだけでは、その質まではわからない。とくに桑原正彦の絵画は。 今展の桑原の作品は、一見するとかわいらしい動物や少女が描かれている。だが、桑原が描く動物には、違和感を覚えるような稚拙さがある。それは、動物がキャラクターとしては成立しえないような不格好さだからかもしれない。もっと完成度が高くかわいらしい犬やクマなどはたくさんいるだろう。例えば、村上隆や奈良美智が描く人物(キャラクター)であれば、その完成度の高い造形性によって、商品化されて一人歩きすることだろう。しかし、桑原の描く動物や少女はそうではない。それはキャラクターが類型化されず、桑原にしか描けない「絵画」となっているからだ。 つまり、桑原が描こうとしているのは、かわいらしい動物をポップな色彩で描くことでも、モチーフへの愛着でもなく、その奥にある見えないものだ。わかりやすく、かわいらしいイメージの背後に、「絵画」を見ることの多彩な「味」が隠れている。
展覧会タイトルの「成型肉」とは、端肉や内臓肉を軟化剤で柔らかくし、決着剤で固めた食肉のことである。人工的に見栄えよく加工された食肉のため気がつきにくいが、私たちの食生活に「成型肉」はもはや日常の風景である。 成型肉のおかげで、安価で手軽に肉を食べられる現代。しかし、肉の表面には見えない部分に肉本来の「味」があるように、桑原の絵画もその見かけではなく、見えない「味」を知覚すべきだろう。 桑原の絵画はそんな現代に描かれる真正の「絵画」である。
|
最終更新 2011年 2月 09日 |