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桑原正彦:成型肉
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2011年 1月 09日

《新しい街で》2010年
oil on canvas|45.5 × 38.0 cm
画像提供:ギャラリーゼロ
Copyright © Masahiko Kuwahara

桑原正彦(Kuwahara Masahiko)は、1959年に東京に生まれました。 90年代から桑原は、私達を取り巻く社会の矛盾や欺瞞をユーモア溢れる筆致でキャンバスに定着させてきました。シリアスなものをシリアスに描けば、素直に多くの人に伝わります。しかし桑原はその方法を選びませんでした。絵画は多様な楽しみ、読み込みが出来るものだと彼が信じているからです。絵画で善悪を伝えたい訳ではないのです。彼はただ、現実を現実のままに提示する、現代の風景画を描いているのです。

成型肉、人工的に見栄え良く加工された食肉は、負のイメージがあります。その反面、再利用・エコ・栄養付加という利点も有るかもしれません。成型肉という美味しそう?な食べ物をキーワードに、今回桑原は13点の絵画と1点の立体を発表致します。桑原の明確な思考と意志は、かわいく虚ろげなイメージで、また文人風に申せば飄逸、そんな表現の奥にしっかりと隠されています。私達はそんな作品の前で、いかようにも遊ぶ事が出来るのです。そんな作風が、日本の現代絵画を切り開いた一人として、海外でも評価される一因なのかもしれません。

10年ぶりの個展となります。ご期待下さい。

※全文提供: ギャラリーゼロ


会期: 2011年1月11日(火)-2011年1月29日(土)
会場: ギャラリーゼロ

最終更新 2011年 1月 11日
 

編集部ノート    執筆:平田 剛志


《新しい街で》2010年
oil on canvas|45.5 × 38.0 cm
画像提供:ギャラリーゼロ
Copyright © Masahiko Kuwahara

    料理や食べ物の味覚は目でも味わえるが、実際に食べて舌で味わうものだ。対して、絵画は食べられないが、目に見えたものだけでは、その質まではわからない。とくに桑原正彦の絵画は。
    今展の桑原の作品は、一見するとかわいらしい動物や少女が描かれている。だが、桑原が描く動物には、違和感を覚えるような稚拙さがある。それは、動物がキャラクターとしては成立しえないような不格好さだからかもしれない。もっと完成度が高くかわいらしい犬やクマなどはたくさんいるだろう。例えば、村上隆や奈良美智が描く人物(キャラクター)であれば、その完成度の高い造形性によって、商品化されて一人歩きすることだろう。しかし、桑原の描く動物や少女はそうではない。それはキャラクターが類型化されず、桑原にしか描けない「絵画」となっているからだ。
    つまり、桑原が描こうとしているのは、かわいらしい動物をポップな色彩で描くことでも、モチーフへの愛着でもなく、その奥にある見えないものだ。わかりやすく、かわいらしいイメージの背後に、「絵画」を見ることの多彩な「味」が隠れている。

    展覧会タイトルの「成型肉」とは、端肉や内臓肉を軟化剤で柔らかくし、決着剤で固めた食肉のことである。人工的に見栄えよく加工された食肉のため気がつきにくいが、私たちの食生活に「成型肉」はもはや日常の風景である。
    成型肉のおかげで、安価で手軽に肉を食べられる現代。しかし、肉の表面には見えない部分に肉本来の「味」があるように、桑原の絵画もその見かけではなく、見えない「味」を知覚すべきだろう。
    桑原の絵画はそんな現代に描かれる真正の「絵画」である。


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