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前衛★R70展
レビュー
執筆: 平田 剛志   
公開日: 2011年 1月 07日

fig. 1  左より赤瀬川原平・秋山祐徳太子・池田龍雄・
田中信太郎・中村宏・吉野辰海
画像提供:ギャラリー58

fig. 2  展示風景
左より中村作品、秋山作品、赤瀬川作品
画像提供:ギャラリー58

fig. 3  左より池田作品、吉野作品、田中作品
画像提供:ギャラリー58

fig. 4  6人の手形と6人の小品
画像提供:ギャラリー58

    とかく現代美術は「新しさ」が好まれる。なるほど新しい表現、新しい作家の登場は歓迎すべきことであるには違いない。だが、年齢を重ねていくことで表現を深化させていくベテラン作家たちの発表もまた看過することはできないだろう。現代美術のグループ展では若手作家の紹介が中心となり、中堅・ベテラン作家が除外されている傾向もあり、日本社会の加齢・老いに対する偏見も見え隠れする。

    そんな中、戦後の前衛美術の作家・作品を検証する「前衛(アヴァンギャルド)」と冠される展覧会が続いている。〈「日本画」の前衛 1938-1949〉展、※1 〈池田龍雄―アヴァンギャルドの軌跡〉展、※2 〈朝倉摂展―アバンギャルド少女〉※3 など、前衛美術ないしは戦後のアヴァンギャルド作家を取り上げた展覧会が相次いで開催されているのだ。

    このように「前衛」をテーマとする展覧会が続くなかで東京・銀座のGallery 58において開催されたのが70歳未満出品不可、完全最新作による〈前衛★R70展〉だ。出品作家は赤瀬川原平、秋山祐徳太子、池田龍雄、田中信太郎、中村宏、吉野辰海の6名。日本の現代美術史を語る上では欠かすことのできない作家たちが揃ったグループ展である。

    そもそも「前衛」とは何か。「前衛」とは、軍事用語で前列・前方に配置されること、つまり「最前線」を意味する言葉である。そこから、現状に対し変革を掲げ、時代の先端に立とうとする姿勢や運動へと解されるようになり、美術においては実験的、先鋭的な作品や行為、現象に「前衛」という言葉が与えられるようになった。

    日本における前衛美術は、戦前および第2次世界大戦後の1950~60年代にかけて活発な展開を見せた。特に〈前衛★R70〉展に出品する作家たちがデビューする戦後の「前衛美術」は、旧来の枠に囚われない作品を制作・発表する作家たちの登場が美術界だけでなく、社会に衝撃を与えた。

    だが、現代において、前衛の「新しさ」から衝撃度が薄れたことは否めない。それも当然かもしれない。「前衛」美術はこれまで存在しなかった芸術言語を開拓したということであり、現代では「前衛」作家たちが試みたことは歴史的前提となったと言えるからだ。むしろ、かつてこのような表現が試みられていたことの事実や歴史が「前衛」を呼びさまし続けているのではないだろうか。相次ぐ前衛を検証する展覧会の開催は、現代美術の影に隠れている「前衛」に再び光をあてる機会を提供するものだろう。

    そこで、「前衛★R70展」の作品を見ると、新作ではあるもののかつての前衛作品が孕んでいた伝統や社会への攻撃、変革、ムーブメントを起こすような運動性はあまり見られない。赤瀬川原平は言葉と写真を組み合わせた『日々是現実』、秋山祐徳太子はブリキ彫刻のダリコ像、中村宏はセーラー服の女学生や機関車を描いた絵画など、彼らの作品に接したことがある者なら、これまでの延長線上にある小品群を見ることだろう。これらの作品に私たちが現代美術史を学んで知った「前衛」の過激さや衝撃を見ることは難しい。

    しかし、長きに渡って作品を制作し続けるということは「前衛」を維持するということではない。むしろ、「前衛」後も自身の世界観や技法を探求し続けていくことが最も難しいのではないか。本展に冠された「前衛」という言葉は出品作品を指すのではなく、この展覧会そのものを指す言葉なのだ。つまり、70歳以上の現役作家6人が「前衛」と冠されたグループ展に出品する機会が実現したこと、彼ら「前衛」作家が現役であり続けることが「前衛」として捉えられるのが現代の状況なのだ。そこには、現代美術=若さ・若者の表現という先入観がありはしないだろうか。キャリアを重ねた作家は「前衛」の記録や伝説として語られ、美術館に展示される機会を待つだけなのだろうか。

    「前衛」の時代を過ぎ、なおも作品を作り続けること。本展で見ることのできる6人の新作は前衛を突き抜けた彼らの返答として見ることができるだろう。そこに、時代を変革するような熱気や攻撃性、「若さ」はない。展覧会に冠される「前衛」の言葉とは裏腹に、彼らの作品は飄々としている。そこには、前衛という言葉を必要としない「新しさ」がある。むしろ、「前衛」という言葉に拘泥してしまう私の反応こそ、「若さ」ゆえのものなのかもしれない。


脚注

※1 「日本画」の前衛 1938-1949〉2010年9月3日(金)~10月17日(日)京都国立近代美術館、2011年1月8日(土)~2月13日(日)東京国立近代美術館、2011年2月22日(火)~3月27日(日)広島県立美術館

※2 池田龍雄―アヴァンギャルドの軌跡〉2010年6月19日(土)~7月19日(月・祝)山梨県立美術館、2010年10月9日(土)~2011年1月10日(月・祝)川崎市岡本太郎美術館、2011年1月29日(土)~3月13日(日)福岡県立美術館

※3 〈朝倉摂展―アバンギャルド少女〉2010年9月10日(金)~11月7日(日)BankART Studio NYK


参照展覧会

「前衛★R70展」 
会期:2010年9月13日~10月2日   会場:ギャラリー58

最終更新 2011年 1月 05日
 

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