藤原彩人:心ここにあらず |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2010年 12月 28日 |
「焼き上がり、窯を開けた瞬間から、そこに立ち、存在しはじめる。」 藤原彩人は彫刻の根源的なテーマである人間を、陶芸の焼くという技法と、彫刻の削るという技法を合わせて表現します。陶器のうつわのもつ内と外という二面性を発展させ、彼の彫刻は、人間の内と外、真実と虚偽、彫刻の光と影といった、相反する二つの要素を同時に併せ持っています。そのどこを見ているか分からない曖昧な表情は浮遊感を漂わせ、どこか現代の日本人の所在なさを象徴しているようです。 藤原が継続的に制作している、地面に直接立つ人物の全身彫刻は、不思議なリアリティを持ち、見るものを引きつけます。彫刻的技法により、繊細に手を加えられた表面は、陶器ならではの冷たさと暖かさを感じさせ、本来は触るべきものである陶器の表面が不可避的に見るものに「触れたい」という欲望を呼び起こします。つまり藤原の作品はいわゆる美術作品と鑑賞者の距離感とは異なるパーソナルスペースをその展示空間に生じさせると言えるでしょう。この作品表面のもつ触覚性の誘惑は藤原作品独自のもので、見るものを戸惑わせるのです。 また、藤原はロンドン滞在を経て、日本人作家であるというアイデンティティーの問題も先鋭化させました。益子出身で陶芸に親しみ成長した彼は、陶芸と彫刻のジャンルを越境する技法とテーマを必然的に選択し、自立彫刻では普遍的な人間を表現すると同時に、現代の日本人の表情を鋭く切り取ってみせます。ここでも藤原は相反する要素を両立させ、彫刻作品のあり方を深化させたと言えるでしょう。また、もう一方で、レリーフ作品では普遍的な人間というテーマに限定されることなく、よりコンセプチュアルなテーマを表現しています。藤原はこのように、現代という視座を持ちながらも、そこにとどまらず、より大きな人間というテーマを探求しており、現代性と普遍性を違和感なく両立する希有な作家であると言えます。 本展では、最新の人物全身彫刻と、これまでのレリーフ作品、胸像、ドローイングスカルプチャーをあわせて展示します。普遍的でありながらも極めて現代的なテーマでもある、ここにあらぬようで今ここにある人物像をどうぞご覧ください。 藤原彩人 個展 グループ展 ※全文提供: 3331 Arts Chiyoda 会期: 2011年1月8日(土)-2011年2月7日(月)12:00 - 19:00(火曜日休廊) |
最終更新 2011年 1月 08日 |