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山本太郎:ニッポン画物見遊山
レビュー
執筆: 小金沢 智   
公開日: 2009年 7月 02日

fig. 1 ≪京都文芸復興万歳図屏風(理事長賞)≫2000 年 紙本金地着色|182×364cm|京都造形芸術大学蔵|画像提供:イムラアートギャラリー|Copyright © Taro YAMAMOTO

fig. 2 ≪風神ライディーン図屏風〈左隻〉≫2005年 紙本金地着色|169.8×154.5cm|株式会社東北新社蔵|画像提供:イムラアートギャラリー|Copyright © Taro YAMAMOTO

fig. 3 ≪四季紅白幔幕図屏風≫2009年 紙本金地着色|各169×167cm|画像提供:イムラアートギャラリー|Copyright © Taro YAMAMOTO

fig. 4 ≪松竹梅図≫2008 年 紙本金地着色|53×45.5cm|画像提供:イムラアートギャラリー|Copyright © Taro YAMAMOTO

    左隻は画面を覆わんばかりの日章旗。右隻は日の丸の鉢巻をし、学生服を着た年配の、同じ顔の男性が隊列を組む様が描かれている。往事にはこのような仰々しい描写によって国威高揚を目指す絵画が数多く制作されたが、これはまさに21 世紀に入ったばかりの、9.11 も迎えていない、2000年に発表された作品だ。1999 年から現在に至るまで、「ニッポン画」を描いている山本太郎の卒業制作、≪京都文芸復興万歳図屏風(理事長賞)≫(紙本金地着色、182×364cm、2000 年、京都造形芸術大学蔵)[fig. 1]である。山本の出身校である京都造形芸術大学の卒業制作展は優秀な作品に学長賞が授与されるが、これは山本が自主的に作った(捏造した)「理事長賞」を、まさしく理事長の似顔絵を使い表現した作品だ。髪の毛が撥ねている理事長の描写の、なんとコミカルなことか!マッチョな左隻とのギャップに思わず笑ってしまった。

    近年は一見してそれとわかる作品は減ってきているが、山本の作品の多くは日本絵画のパロディと言えるかたちをとっている。テレビアニメのキャラクターを元にした≪風神ライディーン図屏風〈左隻〉≫(紙本金地着色、169.8×154.5cm、2005 年)[fig. 2]の着想と構図は俵屋宗達の≪風神雷神図≫(建仁寺)に、延命処置を受ける釈迦を描いた≪仏延命図≫(絹本着色、181×108cm、2004 年)は釈迦の入滅を描いた場面として定型化されている≪涅槃図≫に倣っている。あるいは≪群仙黒牛図≫(紙本金地着色、166×366cm、2003 年)はマクドナルドのキャラクターがハンバーガーの素材である牛を取り囲んでいる作品だが、ドナルドの奇妙に腰を曲げたポーズは、一般的には知られているとは言い難いが江戸時代の優品、≪彦根屏風≫(彦根城博物館)の二扇目に描かれている刀にもたれる若衆の姿を引用していることが明らかである。他にも、≪来迎図≫、≪誰ヶ袖図屏風≫といった過去多くの作例があるものから、≪日月山水図屏風≫(金剛寺)、酒井抱一≪朝顔図屏風≫(メトロポリタン美術館)など具体的な作品を想起させるものまで、その引用元は挙げればきりがない。それらにアニメやファストフードのキャラクター、ないしは電柱や信号、道路などが現代の記号として組み込まれている。

    山本の提唱する「ニッポン画」とはこのように、現代日本を「諧謔」という視点から捉え、それを日本に昔から伝わる技法によって端的に表現する絵画である。それらは各国の文化を積極的に受け入れ、そのことできわめてハイブリッドな文化を持つ日本という国を象徴的にあらわしたものにほかならならない。そして、そうしてできあがった山本の作品は笑いの要素を多分に含んでいる。

    鑑賞者によっては、古典絵画の引用という名目で衆目を引くことを狙ったあざとい作品に見えるかもしれない。しかし引用元が必ずしも誰もがわかるものとは限らない以上、それらの借用は目的ではなくあくまで手段であると考えた方が自然である。最新作である二曲一双屏風の≪四季紅白幔幕図屏風≫(紙本金地着色、各169×167cm、2009 年)[fig. 3]は、古典のパロディ性は息をひそめ、匿名性の高い図像(松、鶴、電柱、朝顔、クリスマスツリーなど)が一つの画面に収まっている。それでいて諧謔という要素を損なわずクオリティの高いものになっているのは、構図の妙と、なにより画力の明らかな向上によるものだ。2008 年の≪松竹梅図≫(紙本金地着色、53×45.5cm、2008 年)[fig. 4]と≪四季紅白幔幕図屏風≫に描写されている鶴は同じポーズだが、前者の鶴の描線が弱々しい一方で、後者のそれが格段によく引けており、上達していることがわかる。今回の個展「山本太郎展~ニッポン画物見遊山~」(美術館「えき」KYOTO、2009 年5 月22 日~6 月14 日)は過去作から最新作までの約50 点を並べることで、山本の表現がいかに一貫しているかを知ることのできる貴重な機会だった。


参照展覧会

展覧会名: 山本太郎:ニッポン画物見遊山
会期: 2009年5月22日~2009年6月14日
会場: 美術館「えき」KYOTO

最終更新 2015年 10月 24日
 

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