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原田晋:window - scape …- scape
レビュー
執筆: 平田 剛志   
公開日: 2008年 11月 14日

"window -scape ... -scape/susumu harada" (2008), art & river bank, © 2008 Susumu Harada and art & river bank

"window -scape ... -scape/susumu harada" (2008), art & river bank, © 2008 Susumu Harada and art & river bank

"window -scape ... -scape/susumu harada" (2008), art & river bank, © 2008 Susumu Harada and art & river bank

    今日もテレビをつけるとそこには膨大な映像が流れている。ただの四角い動画像受信機でしかないテレビという機械に日々送り届けられる映像をわたしたちは日々受信している。テレビに限らず現在の私たちの生活では、パソコン、携帯電話を含め、モニタを見ない日はない。そう、わたしたちが無意識に見ているテレビやコンピュータに写る「映像」もまたひとつの風景と呼べるだろう。「風景」とは、美しい自然や雑多な都市のことだけではない。わたしたちが見ているものを「風景」と言うならば、街や電車の中の液晶モニタやテレビ、パソコン、携帯電話に写る画面/映像もまた「風景」だろう。その粒子の荒いチープな映像でさえ、わたしたちはひとつの「風景」として認識しているということを気づくべきなのかもしれない。

    原田晋の「window – scape」(2008)は、私たちが見ているもうひとつ風景=テレビ/コンピュータに写る映像を「撮影」した写真作品である。画像はボケていて特定の場所や人物を特定できるものではないが、この明滅する光を捉えるという意味で、原田の写真は最も原理的な意味での「撮影」行為なのかもしれない。それは、かつて初期の写真を発明したウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットが初めて写真作品を撮影したとき、像はぼやけているものの、その不確かさゆえに現実というこの世界を確かにあらしめようとした「光景」のように。タルボットは「光」を永久に残したいという思いから、写真製法の研究を行なったが、光の記録を写真の起源とするなら、原田の作品もまた「光」の記録だろう。モニタが発する「光」こそ私たちが日々、太陽よりも近くで浴び続けている「光」だからだ。

    2年ぶりとなる原田晋の個展<window - scape …- scape>(2008年10月11日(土)-11月1日(土)art & river bank)ではデジタル・フォトフレームによるインスタレーションにより構成されている。ここでも原田はわたしたちにもうひとつの「風景」を送り届ける。モニタ上に映し出される映像は、日々わたしたちが浴び続けるテレビやコンピュータ画面のような錯覚を与えるが、そこで映し出される映像はわたしたちにとってもっとも身近で経験や行為を欠いたもうひとつ「風景」にほかならない。

    もともとテレビ(television)とは、tele「遠く離れた」vision「視界」という意味である。ならば、原田の映し出す映像こそ、私たちのもっとも近くにありながら遠い視界を映し出す映像なのかもしれない。遠くの出来事でさえ、都市に住む私たちは隣人のことよりもよく知っていたりする。株価の情報も世界各地で起る戦争・紛争、食料危機、環境問題もすべては私やあなたの身の上にリアルに起きていながら、それを「経験」として確実に実感することはない。それらを直接、体験したり手に触れたわけでもない。なのにそれらの映像・情報になによりも反応してしまう私たち。モニタが発する「光」を通して、私たちに送り届けられるwindow-scape。

    本展タイトル「window – scape」にはさらに「…- scape」と付け加えられている。それは、写真によって切り取られた「映像」が、再びモニタに映し出される反復・入れ子上の構成を成しているためだろうか。遠く見える風景はいくどもコピーを重ね画質が劣化した画像のごとくボケて、わたしたちの視界に届けられる。そのとき見える「遠く離れた」風景こそ、いま、わたしたちがリアルに感じられる「風景」として見えるのだ。 ※ 図版出典: 「window -scape ... -scape/susumu harada」フライヤー、art & river bank発行(2008)


参照展覧会

展覧会名: 原田晋:window - scape …- scape
会期: 2008年10月11日~2008年11月1日
会場: art & river bank

最終更新 2010年 7月 06日
 

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