今年、「ひと・Human Being」というテーマに決まりましたとき、思いだしたことが有ります。昔々、私が若かった頃、神戸の中華料理店で華僑の家族の隣のテーブルに席を得た時のことです。私は、華僑一家の中の一人の初老の女性を見ていました。とても美しい人だと思いました。ごく普通の小花柄のグレーのブラウスの、ロマンスグレーの髪を後で結わえただけの質素なその女性は、色白の顔に、肌の色に良くあう朱赤の紅を差していました。同席の少女がふと「おばさん」と声を掛けたのです。その瞬間、私は彼女の人生に思いをはせてしまいました。ジョン・ダンの「THE AUTUMNAL」はそんな齢の女性を、美しいと謳った詩です。

若いという美しさは与えられるものですが、秋のような美しさは、様々な事を経て後はじめて得られるものなのです。アートもそう有りたいと思い、このタイトルを付けました。飽き飽きした日常に、またぽっかり開いた心の空きに、見飽きぬものを、明らかにできましたなら、幸いでございます。

出品作家
矢部奈桜子・高橋将貴・桑原正彦・上田真由美・高橋友・坂井淑恵・小磯良平　他

※全文提供：　ギャラリーゼロ

会期：　2010年9月29日（水）－2010年10月9日（土）