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吉田義和:櫻の展翅
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 9月 20日

画像提供:Port Gallery T|Copyright © Yoshikazu Yoshida

2008年に発表した個展『花影』では、水面にうつる桜の木を、春分から立夏にかけてとらえた写真の連なりで発表。桜の季節とも言える春の、瞬間的な悦び も溢れつつ、事象のうつろい、時の流れも見えました。その後1年間、同じ1本の桜に目を向け続けた吉田には、何が見えてきたのでしょうか。ぜひご高覧ください。

「櫻の展翅」は、水面に映る櫻の姿の記録です。
一年間、欠かさず毎日撮るとだけ決めて、欠かさず毎日撮りました。
雨の日があり、風の日がありました。
犬の散歩に行くように、カメラに連れられ毎朝出かけ、この櫻の前で日を暮らすこともありました。
一日ぼんやりしていると、櫻も私も日時計のようでありました。

あたりでは鴨の子が生まれ、ツバメのひなが生まれ、そのうち幾羽かが死にました。
しのつく雨の中でも蛍は舞いました。
水に落ち、緑の明滅を繰り返しながら流されて行く蛍を毎年見ます。
スズメバチの羽音が、こちらに猶予のないことを知らせます。
犬を連れた人と連れてない人の間で、小さな諍いがありました。

いつも見かける鯉が一匹死んでいたので、あれは誰かが取ってやらねばと、交番にそのことを告げに行くと、
「昨日○○町で88歳のおばあさんがいなくなったから、これから探しに行かなければならないんです」
おまわりさんにそう言われたんですよ、と毎朝会う方が話してくれました。

山に降る雨はやわらかい音がして、その雨がやむと、すべてを清めていくような風が渡ってゆきます。

私が毎日立っていた所には、私の足の形に草がありませんでしたが、今はそんな人間はいなかったかのように、草がぼうぼう生えています。
(吉田義和)

吉田義和(Yoshikazu Yoshida)1967年 茨城県生まれ
1991年 専修大学法学部卒業
1998年 東京綜合写真専門学校 夜間部卒業
2005年より、京都在住

個展 :2008年「花影」Port Gallery T
グループ展:2008年「DOOR 2008」Port Gallery T

※全文提供: Port Gallery T


会期: 2010年9月20日(月)-2010年9月25日(土)

最終更新 2010年 9月 20日
 

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