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岩田俊彦 展
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 9月 20日

画像提供:レントゲンヴェルケ

岩田俊彦作品の魅力とは?
尾形光琳、鈴木春信、福田平八郎らの意匠をこらした作品は、今日まで多くの人々に愛されています。彼らが現代の日本に今生きているとしたら、どの ような作品を作り、どんな作品をコレクションするのでしょう。考えるだけでとてもワクワクしませんか。

彼らの作品の素晴らしいところ。モチーフの配置力、余白の美、対象を絞り込んで徹底的に不要なものを排除する構成力。写真のように対象をフレーミ ングする ことにより、描かれていない作品の周りの空間の気配を感じさせる構成力は、抑制が効いていて潔いものです。例えば、光琳の「杜若屏風」にある杜若の大胆な 配置、春信の「夜の梅」に見る背景の黒、白梅、着物と橋に使われた朱色のシンプルな色彩と構図、平八郎の代表作「雨」や「漣」のフレーミング力。これらは 凡人では到底表現できない、選ばれた人間の持つ感性の表れだと思います。

岩田俊彦の「サイコロ二ドクロ」は21cmの厚みを持つ、85X85cmの正方形の作品です。朱漆で塗られた正面の右側の一辺のみ、側面に塗られ た黒漆が 筆1本分の幅だけ正面にはみ出しています。見過ごすかもしれない程度にはみ出たその1本のラインがあるだけで作品がしまり、正方形の均衡を崩し、他3辺の 意匠と共に興味深い絶妙なバランスを生んでいます。また中央に、タテ約5cmヨコ2.8cmの金蒔絵を施したサイコロとドクロのモチーフがあり、 そのドク ロを良く見ると金歯が光っています。これらの「構成力」と「遊び心」は、上記の先人の作家の作品にも通じる感動と高揚感を与えてくれます。

岩田は、古典柄、動植物、骸骨などの伝統的なモチーフを、ポップで現代的なアイコンに転化させています。そのポップなアイコンを、9,000年前 の縄文時代から用いられている漆、時には蒔絵や螺鈿という伝統的な加飾をほどこした漆地に、シンプルな色彩と構図で配置しています。その異質なものの組み合わせは伝統と現代のコントラストとなり、バランスが際立ち印象的です。

私達の日常には、利便性があり扱いやすいものがあふれています。漆に近い塗料として研究開発されたウレタン樹脂。毛皮に似たフェイク・ファー、天 然の宝石 の輝きと変わらないフェイク・ジュエリー。その中で本物の存在感とはどういうものなのでしょう。それは本物を持つことで得られる「心の充足・満足感」では ないでしょうか。

岩田は漆を漆器などの実用品ではなく、絵画のように平面的な形に仕立てているため、作品が現代の日常的な空間に飾り易く、国内外問わず様々な空間 にマッチ するものとなっています。そして、壁面に作品を展示することにより、改めて「漆」の素材・存在感が強められています。「漆黒」という言葉がありますが、実 際に「漆黒」を見たことはありますか。ぜひ一度本当の「漆黒」を岩田作品から体験されたらいかがでしょう。

このように岩田の作品を日常生活に持ち込むことで、私たちは日本の伝統文化を違和感なく味わい楽しむことができます。そして、岩田作品というタイ ムカプセ ルにのり、さかのぼって日本の伝統文化を知り回帰することで、心の充足を得、希望を持って未来を歩んでいく、そのような作品だと思います。

光琳、春信、平八郎が岩田の現代の漆絵を見たら、どのような感想を持つのでしょうか。聞いてみたいものです。「平成の漆も面白いもんだ」そんな声 が聞こえたら嬉しいかぎりです。
-片山 有佳子(art gardens)

※全文提供: レントゲンヴェルケ


会期: 2010年10月29日(金)-2010年11月20日(土)

最終更新 2010年 10月 29日
 

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