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淺井裕介:植物と宴
編集部ノート
執筆: 田中 麻帆   
公開日: 2010年 8月 23日

こじんまりとしたギャラリーの壁一面には、金銅色のペイントが施されている。この壁画は下へ伸びるにつれ泥のような質感に変わり、床や壁に取り付けられた粘土細工へとつながる。天井からは、鮮やかな色彩のグラフィカルな絵画が吊り下げられている。よく見ると絵の支持体には切って貼り合わせたファッションブランドの紙袋が用いられており、描かれたモチーフの裏に、ブランド名がうっすらと透けて見える。ひとつ、塗りこめられずはっきりと判別できる紙袋の言葉は「LOVE EARTH」とある。

壁画、粘土細工、そして絵画のすべてには、動物や植物を融合させたモチーフがプリミティヴかつ装飾的なスタイルで表され、アボリジニの民族芸術を思い出させる。更にいくつかの絵画は少女を中央に配し、動植物で取り囲むように描き、自然の象徴たる擬人像を賛美しているかのような印象を与える。とはいえ、これらのグラフィックはアクリル絵の具やペンを用い、激しく明るい色合いで描かれているため、子供の落書きのようにも見える。

それでは愛すべき「母なる自然」(LOVE EARTH)」は、ここでは単なるあどけない女の子として示され、消費社会をバックグラウンドにただその富を享受するという、「宴」を繰り広げているだけなのだろうか。

しかしギャラリーの奥へと進み、齋藤祐平との共作ユニット「聞き耳」による映像作品を見ると、予想外に切迫した音楽が用いられていることに驚かされる。ただし時折、ほのぼのとした効果音も入り混じる。それは、20世紀初頭、加速度的に進化していく社会を信奉した未来派の作家たちの楽曲のように、シリアスなのにどこか楽しげで、コミカルですらある。

この音を踏まえてみたとき、本展の作品全体が示すのはまさに、環境問題に対する今日の私たちの姿勢そのものではないだろうか。例えば、環境保護を訴えるセレブら御用達ブランドのエコバックを手に入れようと、多くの消費者がつめかけたというニュースは記憶に新しい。今なお速度を増している現代社会では、環境保護運動すら、資源を浪費し汚す危険をはらむ。こんな矛盾の宴はいつまで続けられるのだろう。

本展覧会は、その生命力あふれる色とりどりの作品で私たちの目を悦ばせ、自然を愛でる心を甦らせると同時に、私達と自然との向きあい方、その難しさをも想起させる。

最終更新 2015年 10月 31日
 

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