石上純也:建築はどこまで小さく、あるいは、どこまで大きくひろがっていくのだろうか? |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2010年 8月 10日 |
昨年、開廊90周年を迎えた資生堂ギャラリーでは、1919年の創設当時から、絵画、彫刻だけでなく、写真、工芸、デザインなど様々な分野の展覧会を行ってきました。なかでも、建築に関わる展覧会は数多く開催しており、1922年には大船田園都市住宅展1、1925年には建築家・山口文象が主宰する創宇社2の建築制作展を開催するなど、近代建築史からみて重要なものも少なくありません。また、資生堂の社屋や店舗は創業当時より、辰野金吾、前田健二郎、谷口吉郎、谷口吉生など、日本を代表する建築家たちの設計によって建てられてきました。1993年には「銀座モダンと都市意匠」展を開催し、銀座の建物の設計や装飾を手がけた建築家、あるいは銀座を舞台に新しい建築思想を発信した建築家をとりあげ、都市と建築について探究しました。本展は「銀座モダンと都市意匠」展以来、資生堂ギャラリーで17年ぶりの建築展となります。 石上純也は、2009年に日本建築学会賞を受賞。ヴェネチア・ビエンナーレ建築展には2008年に日本館、2010年にグループ展と2回連続での参加が決まるなど、国内外で活躍し、現在最も注目されている気鋭の建築家です。「私たちがまだ知らない世界を切り開くひとつの手段として建築があるのではないか」と考える石上は、既成概念にとらわれない自由な発想で建築の新しい可能性を追い求めています。 現在、石上はロンドンに本拠を置く美術系の出版社、テームズ・アンド・ハドソン(Thames & Hudson)から、2011年に出版予定の本を制作中です。この本は単なる作品集ではなく、石上純也の建築に対する考えを示すものです。これまでのものから未発表の新たなものまで、約100のプロジェクトが掲載される予定です。 展覧会では、そのなかから主要なもの約60を選び、模型を主体とした展示を展開します。展示予定のプロジェクトは、指先ほどの器の内部を空間としてとらえ、小さな草花をその小さな壁に展示する「little gardens」、スコットランドの古い美術館をとりまく巨大な庭を新たな環境に計画しなおすことで美術館そのものを再生する「landscape for the old museum」、大きな草原や山など、本来都市を取り囲む自然環境を建物で取り囲むことで生まれる中庭のような空間、それを街の環境としてとらえなおすことで、自然環境のスケールと都市のスケールを等価にとらえていく「big patio」など。それらのプロジェクトは、実際のものとその延長で生まれたものとの間に明確な区別はなく、等価に思考された結果としてあらわれたもので、その背景には常に、建築のカテゴリーを超えた専門家へのリサーチ、それをもとに行う物理計算・論理展開などの具体的な試行がともなっています。そして、それらはどれも石上が追求している建築の可能性の一端を担っているのです。 世界の状況を瞬時に知ることができ、人々の意識の範囲が広がっている現在、従来の価値観やスケール感を超えた建築が必要と石上は考えます。展覧会タイトルの「建築はどこまで小さく、あるいは、どこまで大きくひろがっていくのだろうか?」には、「惑星と建築、素粒子と建築、建築以外のすべてのものと建築、たとえば、そういうスケールの広がりをもって建築の可能性を考えていきたい」という石上の確信と期待が込められています。建築家として、着実に現在から未来へと向かっている石上純也の世界をぜひお楽しみください。 1 当時渡辺銀行を経営していた渡辺家が神奈川県鎌倉市の大船駅前に計画していた住宅地の設計コンペ展。もし完成していたならば大田区田園調布と並び称される程の住宅地になっていたはずであった。(富山秀男監修『資生堂ギャラリー七十五年史』求龍堂 1995 p44) 石上純也(いしがみ じゅんや)プロフィール 主な作品 受賞歴 全文提供: 資生堂ギャラリー 会期: 2010年8月24日(火)-2010年10月17日(日) |
最終更新 2010年 8月 24日 |