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淺井裕介:植物と宴
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 7月 16日

《人No.2》2009年
h.167.5×w.112cm|アクリル、インク、ペン、紙画
像提供:ARATANIURANO|Copyright © Yusuke Asai

淺井裕介は1981年生まれ。陶芸を学んだ後2001年から現在に至るまで、ギャラリー、美術館、公共空間と場所を特定することなく、あらゆる場で絵を描き続けています。「人」、「動物」や「植物」と淺井の描くモチーフは、根源的な生き物の単位であり、日常生活の中で常に描き続けることで自然に身体から生み出される絵は、奔放ながら繊細で力強く、観る者に心地よい生命感と開放感を感じさせます。

淺井の絵は、ペインティングの概念の枠組みに収まらず、ペン、インクなどで描く作品から、マーカーペンで描いたマスキングテープによって壁に増殖させ描いていく作品「マスキングプラント」、採取した現地の土と色彩の違う土によって描く作品「泥絵」、埃や汚れた壁面を消すことで描かれる線によって描かれる絵、そしてロープ、道路の白線のシートなど、身の回りの素材すべてを自由に使い、次々と新しい表現に向かって広がっていきます。

日々感じている想いと休みなく手を動かし続ける姿勢は、心身を通じて作家の「生」そのものと直結し、絵に対する果てることのない興味と欲求が、淺井の絵画の本質にせまっていくのです。

昨今は、ジョグジャナショナルミュージアム(2008年、インドネシア)、ソウル市美術館(2009年、韓国)、福岡アジアトリエンナーレ2009(福岡アジア美術館)、群馬県立近代美術館(2009年)、水戸芸術館(2008年)など国内外の美術館や、「広島アートプロジェクト2008」、「赤坂アートフラワー」(2008年)などアートプロジェクトの参加が目覚ましい中、昨年は若手作家の平面作品の登竜門といわれる「VOCA展」で大原美術館賞を受賞し、活動の幅がさらに広がってきています。また今年はインドの小学校を会場にしたアートフェスティバル「ウォールアート・フェスティバル」から始まり、本展覧会の他、三菱地所アルティアムでの個展「ショッピング」(福岡、6/12-7/11)、「湖畔の原始感覚美術展」(西丸震哉記念館他、8/1-31)、「あいちトリエンナーレ2010」(名古屋、8/21-10/31)と発表が続いていきます。

本展は、淺井が最近描いている「人」のシリーズと「植物」をモチーフとした絵を中心とした展示を行います。また今年の展覧会予定の三菱地所アルティアム、ARATANIURANO、あいちトリエンナーレと続けて発表する映像作品のうちのひとつとして、齋藤祐平とのユニット「聞き耳」での映像作品「紙電話」シリーズを展示します。また会期中後半では、「紙電話」シリーズでのライブペイントを行います。

※全文提供: ARATANIURANO


会期: 2010年7月23日(金)-2010年9月4日(土)

最終更新 2010年 7月 23日
 

編集部ノート    執筆:田中麻帆


こじんまりとしたギャラリーの壁一面には、金銅色のペイントが施されている。この壁画は下へ伸びるにつれ泥のような質感に変わり、床や壁に取り付けられた粘土細工へとつながる。天井からは、鮮やかな色彩のグラフィカルな絵画が吊り下げられている。よく見ると絵の支持体には切って貼り合わせたファッションブランドの紙袋が用いられており、描かれたモチーフの裏に、ブランド名がうっすらと透けて見える。ひとつ、塗りこめられずはっきりと判別できる紙袋の言葉は「LOVE EARTH」とある。

壁画、粘土細工、そして絵画のすべてには、動物や植物を融合させたモチーフがプリミティヴかつ装飾的なスタイルで表され、アボリジニの民族芸術を思い出させる。更にいくつかの絵画は少女を中央に配し、動植物で取り囲むように描き、自然の象徴たる擬人像を賛美しているかのような印象を与える。とはいえ、これらのグラフィックはアクリル絵の具やペンを用い、激しく明るい色合いで描かれているため、子供の落書きのようにも見える。

それでは愛すべき「母なる自然」(LOVE EARTH)」は、ここでは単なるあどけない女の子として示され、消費社会をバックグラウンドにただその富を享受するという、「宴」を繰り広げているだけなのだろうか。

しかしギャラリーの奥へと進み、齋藤祐平との共作ユニット「聞き耳」による映像作品を見ると、予想外に切迫した音楽が用いられていることに驚かされる。ただし時折、ほのぼのとした効果音も入り混じる。それは、20世紀初頭、加速度的に進化していく社会を信奉した未来派の作家たちの楽曲のように、シリアスなのにどこか楽しげで、コミカルですらある。

この音を踏まえてみたとき、本展の作品全体が示すのはまさに、環境問題に対する今日の私たちの姿勢そのものではないだろうか。例えば、環境保護を訴えるセレブら御用達ブランドのエコバックを手に入れようと、多くの消費者がつめかけたというニュースは記憶に新しい。今なお速度を増している現代社会では、環境保護運動すら、資源を浪費し汚す危険をはらむ。こんな矛盾の宴はいつまで続けられるのだろう。

本展覧会は、その生命力あふれる色とりどりの作品で私たちの目を悦ばせ、自然を愛でる心を甦らせると同時に、私達と自然との向きあい方、その難しさをも想起させる。


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