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荒木経惟:遺作 空2
編集部ノート
執筆: 小金沢 智   
公開日: 2010年 1月 06日

「遺作」や「絶筆」という言葉には特別な響きが籠められている。作品が生涯最後のものであれば、作家の到達を見せるものとしてきわめて興味をそそられる。だが、もとより「遺作」や「絶筆」とは作家本人がそういうものとして狙って制作したものではあるまい。だから必ずしもその作家のすべてが籠められているとはかぎらない。不謹慎なことを言えば、その面白さもあるのだが。 では、生きているにもかかわらず自ら「遺作」であると宣言した場合はどうか。その分鑑賞者からの期待は増すだろうから賢明な判断とは言い難いが、それをやってのけてしまうのが写真家・荒木経惟である。個展「遺作 空2」は、二〇〇八年に前立腺癌に冒され、死を意識したアラーキーの写真展だ。会場には空を写した白黒の写真に、色鮮やかなペインティング、新聞や写真のコラージュ、豪快な書がしたためられたものが壁一面に展示されている。写真がそもそも時間と空間を切り取るものであるならば、そこには「死」が必ず内在している。荒木がこれまで撮り続け、数百冊の写真集を出している事を考えれば、改めて「死」を意識していると言われるのも不思議な気がするが、今回の個展にあらわれていたのは死というよりはそこから噴出する生であり性への強い意識のように思われた。

最終更新 2010年 6月 27日
 

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