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吉田和夏:いきもののねつ
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2010年 4月 21日

《眼と眼》2010年 Acrylic on cotton and panel|1445×1445mm | 画像提供:ギャラリーモモ | copyright(c) Waka YOSHIDA

吉田は1983年岩手県生まれ、2006年埼玉大学教育学部美術専修卒業、2008年にはセツモードセミナーを卒業、現在は茨城県で制作しています。

吉田作品の多くは地上の風景を切り取り、その風景を支えるように地層が描かれ、地層の下部は切断されて空中に浮遊しています。その地層も時には豚バラ肉であったり、ケーキ、アイスクリーム、電車と、まるで作家の日常生活を映すかのようなモチーフ、見る者に親近感を抱かせます。 吉田は「家の中に閉じ籠って絵を描いていると、地層の中にすっぽり埋まっている感覚になる」と言いますが、しかし日常生活の中では買い物にも出、映画や絵を見るなど、必ずしも外の世界と断絶するわけではありません。カーテンで窓をふさげば一時的に断絶しても、買った物が家の中に入り、出歩くことで体験するさまざまな刺激が自らを満たし、そのことで外とのつながりを感じることができます。

今までは地層を外側から俯瞰していましたが、こうした日常的な生活感覚を通して、地層の内側を見つめ、内側の世界から外の何かと、あるいは誰かとつながれないかと思考が巡り、見つめる視点も一方通行ではなくなりました。 虫メガネは距離の取り方で見る対象物が大きくもなり小さくもなります。随所に虫めがねのモチーフが出てくるのは、それぞれの世界を見つめる道具として存在する一方、双方をつなぎ自由に行き来できる道具としても考えられています。 今展のタイトル「いきもののねつ」は、全てのものが土に帰り、時に化石となって命あるものが循環し、そこに太古からの熱を感じ取り、その熱を数万年もの時を経て受け継ぐことで、人間の生もここにあるということから付けられました。

新作ではこどもが「いきもののねつ」を継承する者として描かれるようになっています。こどもが貴重な体験を得たり新たな出会いに巡り会う時、その旺盛な好奇心と探究心で思いと違う行動を取ったり、突拍子もないことをしでかすことがあります。そこには思考より先に強い感受性と心を突き動かす衝動があり、作家自身がそうしたこどもの感性に立ち戻りたいという思いも、描かれたこども姿に託されています。 ケーキのような地層や溶け出す宝石のような海の層など、今まで俯瞰した視点から描いてきましたが、今展では、結晶が空間に浮いている構図で描かれたシリーズなど、大小約30点のペインティングと、手のひらに乗る小さな立体作品数点を展示する予定です。博物館に来たような感覚で、新たな吉田ワールドをお楽しみいただければさいわいです。この機会にぜひご高覧ください。

作家コメント
すべてのものがなくならずに循環している。
過去の生物が生きた結果、私がいきていける資源が残された。
私は世の末端のあなぐらで、何が出来るのか考えている。
空間に浮いている結晶を俯瞰する。断面の中の生活を眺める。
虫眼鏡を前後させて二つの視点を行き来し、いきもののねつの伝わりを、見つめているところ。
私はそこにいます。
2010 年 吉田和夏

※全文提供: ギャラリーモモ

最終更新 2010年 6月 05日
 

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