展覧会
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執筆: カロンズネット編集
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公開日: 2010年 4月 12日 |
今津景(b.1980)は、複数の風景や人物を組み合わせて画面を構成し、透明感のある独特な世界観をもつ半抽象絵画作品で知られている、近年VOCA 展で佳作賞を受賞した作家です。
今津は、インターネットや雑誌などからランダムに画像を収集し、それを様々に構成していく過程で見えてくる世界観の変換点を探し、作品にしていきます。同じ画面に同居することで見える世の中の矛盾を浮き彫りにし、価値観の転換をはかります。
たとえば華やかな都会を描いたような絵も、よく見ればゴミ捨て場とおぼしき風景であったり、光の都市を描いたかと思えば、実は洪水の後のスラムのような風景であったりします。普段何気なく受け入れている日常や世の中に潜む矛盾を、それとは対照的な美しい色彩で描画しています。
「光」は元来画家が捉えようとしてきた基本的な要素ですが、今津がいつも捉えようとしている世界の側面にある光は、全体を印象として捉えるのではなく、「光」の輪郭を掴みハイライトだけに輪郭をつけ、その光によってぼけている部分をつくります。そうすることで画面から最初に美しい光の印象が見え、その後そこで起こっているドラマのようなものが二次的に見えてくるよう、油絵の具という素材が持つ距離感と透明感を駆使し描かれています。
油画としての技術的な光を美しい色彩を以て表現しながら、それでいて世界の矛盾やダークサイドを描くことで、鑑賞者の期待をかわし、当たり前だと思っていた価値観をずらしたり変換する試みを絵画の中で続けています。
世界中にありとあらゆるイメージが溢れていて、一瞬でわたしたちは受け取る事ができます。 テレビで衝撃的な事件やひどい災害、または美しい大自然の映像が照らし出されても、すぐにわたしたちは見慣れ、受け流し、新奇なものへ興味を向けます。 そしてその切り替えスピードはどんどん加速します。 ありとあらゆる情報がすぐに、まさにそこにあるというだけで古いものになってしまいます。 あまりにも流動的でつかみどころのない世界がそこにあるので、自分自身がぼやけ透明になっていきます。 わたしは目の前で起こっている現実にしかリアリティを感じることができなくなり、つまり視界のなかで、臭いを感じて、味わいのある、語りかける事のできる世界に安心を見いだし、周りがくっきりと存在感を持つ事によって自分の輪郭をかたちづくろうとします。 しかしわたしは制作の時、自分の生活とはまったくかけ離れた写真や映像の記録というものを組み合わせ、それをキャンバスに起こします。 それぞれで切実なストーリーを持った世界。 地平線まで続く情報のぬけがらの瓦礫の山でわたしは積み木を作り、実際に筆を持ってぬけがらを、キャンバスの上で絵の具の固まりに再生してゆきます。 絵の具の流れに任せて最初の図案と出来上がるものがかけ離れる事があっても、わたしは最初に作り上げたイメージ ̶つまりこの世のどこかに自律している光景̶ に忠実であろうという態度で画面に向かいます。 それぞれの世界はわたしなどが飼いならせるようなものではなく、自由に育ててみようという感覚です。 絵の具で鮮明に「絵画」という実際の存在感のあるモノ、物質に作り上げてゆきます。 それには捏造された、実際には起こりえない風景が描かれています。 しかし、確かに現実を積み上げたものなのです。 熱っぽく意味も融け出して揺らいでいる世界を一瞬、冷たいロウで無理な姿勢に固めているような感覚です。 遠くに横たわってまどろんでいる世界の深みに一生懸命話しかけているのです。 のっぺりとして表層的なものの裏に潜むものを、わたしはその場面に飛び込んでぐちゃぐちゃに汚れてもつかみ取りたいと願い制作をしています。 一つ一つの絵を描くことはその絵を旅する気分で、めいめいのルールに驚きながら順応していきます。 しんどいですが、最後には懐かしいものになります。 このような世界の確認はわたしにとって自分の確認でもあり、とても切実に思えるのです。 描くという実感を通して世界を引き受けるという作業の集積が、わたしの絵画です。- 今津景
今津 景 IMAZU, Kei 1980 山口県生まれ 2007 多摩美術大学大学院美術研究科修了
個展: 2006 今津景展、Gallery b.Tokyo、東京 2007 今津景展、Gallery b.Tokyo、東京 2008 今津景作品展、NICHE GALLERY、東京 2009 今津景展、野田コンテンポラリー、名古屋 グループ展歴多数。
受賞: 2004 東京ワンダーウォール入選 2006 シェル美術賞入選 2009 VOCA 2009 佳作賞受賞 、上野の森美術館
※全文提供: 山本現代
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最終更新 2010年 5月 22日 |