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柴田健治:夾叉(きょうさ)
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 4月 12日

画像提供:タグチファインアート

柴田健治は1971年新潟県生まれで現在茨城県在住。1998年に東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻を修了。1997年のギャラリーQにおける初個展以来、東京を中心に数度の個展と、東京都現代美術館アニュアル2002「フィクション ? - 絵画が開く世界」展やカスヤの森現代美術館での「アテンプト」展(2007, O Jun氏 企画) をはじめとするグループ展で作品を発表。これまで着実に評価を積み上げてきました。 「鏡面のように平滑な絵画」
柴田は東京藝術大学在学中から一貫して、一見するとオーソドックスともいえるモノクロームの抽象絵画を制作してきました。それは微妙な色彩によって画面構成され、鏡面のように平滑で光沢のある表面を特徴としています。そうした絵画を実現するために試行錯誤のうえに彼が獲得した制作方法は、パネルに水張りしたアルシュ紙に油の吸収を抑えるためにニカワで下塗りし、それを支持体として限られた色数の油絵の具を流し込んで色を重ね、刷毛を用いてフラットな表面を構築するというものです。昨年の個展で発表した作品では、初めて支持体をアルシュ紙からキャンバスに替え、より大きなサイズの作品への展開を期待させました。暗褐色や暗灰色、あるいは深緑色をたたえる茫漠とした画面には、ほのかに赤や青の色彩の気配が漂い、ときにある奥行きや光、風景のようなイメージ、イリュージョンを観る者にもたらします。静謐さをたたえた美しい作品は、高い完成度、緊張感をもって観る者を魅了します。
「サイコロの目」
柴田の作品タイトルは常に9桁の数字です。これはサイコロによって偶然出た数字を並べたものです。彼は自分の作品には特別に重要な作品は無く、どれも等価であると考え、こうした題名の付け方を採用しています。 「皮膜としての絵画」
柴田の仕事は、色彩や形態、構成、筆跡やイリュージョン、さらに作品タイトルという、これまで絵画を成立させてきた要素や条件を極限まで抑制しながら、それでもなお絵画として成立しうる限界点を探ろうとするものです。彼は古典絵画にみられるような表面のフラットさにこだわり、ある深さで視線をはね返すような奥行きの感覚を生み出すべく刷毛を操作して絵の具を重ねます。それは絵画をその原初的な地平、すなわち薄い皮膜としての平面・二次元性へ還元しようという試みであるといえます。そして現代にこうした抽象絵画を描く行為の困難さに対する作家自身の自覚が、彼の作品に強度や緊張感を与えているのです。
「夾叉」
夾叉は海軍の砲術用語で、発射した砲弾の着弾範囲内に目標がある状態のことをいいます。絵画とはこの夾叉のようなものである、と柴田は考え、今回の個展のタイトルにしました。

夾叉とは
一発必中を保障するものではないが
決して期待や憶測に甘んずるものでもない
確率や統計といった、どこか外側にある手立てでもなく
現前にある常に対峙し、これをよく見て
自らの射程である「個性」によって対象物を見極めること
そして「個性」が戻し返すズレに自身を映して
それを一つの状態としてある「世界」にすること
鑑賞者にとっても実に優雅で自由な遊び場ではないか
幾万の人々が、ここでは幾万もの夾叉を楽しむことが出来るのだから
絵画という射程距離を楽しみたまえ
- 藤原大典


今回の展示は昨年に続きタグチファインアートにおける2度目の個展となります。4月下旬ののドイツ、ケルンにおけるアートフェア、アートコロンのプログラム、ニューポジションズでの個展のために準備した作品群から40号を中心に展示致します。絵画の豊かさや新しい可能性を感じさせる柴田の作品をぜひご高覧下さい。
※全文提供: タグチファインアート

 

最終更新 2010年 5月 22日
 

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