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黒宮菜菜:流彩の幻景
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 3月 09日

《雲あそび》 2009 年 182cm×227cm|アクリル板、木材、油絵具、メディウム 画像提供:INAXギャラリー2 copy right(c) Nana KUROMIYA

ギリシャ神殿の柱のようなかたちが並んでいます。柱頭には丸いビーズのような豪華な装飾が施され、柱と柱の間には首飾りのようにめぐらされて煌めいています。全体にカラフルな淡い色調で、荘厳な雰囲気の中に、華やかで優しさの漂う油彩による平面作品です。

柱のかたちは、滑らかなアクリル板に油絵具を直接流すことによって表現されています。上から下に液体が流れていくさまには自然のストロークのダイナミズムがあり、やがて液だれが掠れ薄れていくと、霧の中に建物が沈んでいくような幻想的な光景が浮かび上がります。

また、ビーズやイタリアのガラス象嵌細工のように見える装飾的な部分は、絵具を1滴1滴スポイトで垂らすことによって、その表面張力でふっくらと結びあい、結晶のようなかたちとなります。

作家の黒宮菜菜は30 歳。現在のような作品を制作するようになって3 年になります。油絵の具をチューブから直接支持体に塗りつけ、ドリッピングや垂らし込み技法を用い、液晶画面のような鮮やかな発色と光沢で作品をつくり出しています。

モチーフは自然に流れた絵具のかたちから連想されるものたちです。泡のように生まれては消える細胞、樹木や山並み、髪をたらした女性、睡蓮の咲く池、幾何学模様の壁紙が貼られた室内などが、洪水のように押し寄せる色彩の間に浮かび上がり、濃密な世界をつくり出しています。

黒宮は学部時にはコンセプチュアルな作品を制作していましたが、大学院に移ってそれまでの自分の考えを体現する作品から、そもそも絵を描くこととは何かと考え始めて、一時描けなくなります。その時に残ったのが描きたいという衝動でした。そこから現在の技法を用いた作品が生まれました。

今展では1 点の大きさ270~150 cm四方の作品、約10 点が展示される予定です。博士課程に在学中の黒宮のエネルギッシュな作品をご覧下さい。

黒宮菜菜プロフィール
1980 年東京生まれ
2007 年京都造形芸術大学芸術学部美術工芸学科洋画コース総合造形専攻卒業
2007 年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士過程油画専攻入学
2009 年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程油画専攻修了
現在京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程在籍

個展:
2008 年「debut! ver. NANA IIZUKA 」谷門美術(東京)
2009 年「黒宮菜菜個展」谷門美術(東京)

グループ展:
2006 年「呼吸するout line」gallery RAKU(京都)
2006 年「呼吸するout line vol.2」ART ZONE(京都)
2007 年「ART AWARD TOKYO 2007」行幸地下ギャラリー(東京)、「LOCA 2007」京都市立芸術大学3 号棟4 階廊下(京都)
2008 年「混沌から躍り出る星たち2008」(招待作家)ギャルリ・オーブ(京都)、スパイラルガーデン(東京)、「TOKYO EYE 06」大丸東京店(東京)、「四条ストリートギャラリー」高島屋、田ごと(京都)、「LOCA2008」京都市立芸術大学3 号棟4 階廊下(京都)
2009 年「作品中! '09」galerie 16(京都)、「ART AWARD TOKYO 2009」行幸地下ギャラリー(東京)

賞歴: 2009 年修了制作展大学院市長賞(買い上げ作品)

※全文提供: INAXギャラリー2

最終更新 2010年 4月 01日
 

編集部ノート    執筆:田中みずき


大画面の上部から絵の具を流し、装飾的模様や人物と組み合わせた作品が白い会場で映えている。

絵具が気持ち良く垂直に落ちる動きは、滝や雨などの水に関するイメージや、風、見上げてしまう高い柱、あるいは気絶をする寸前の視界をも思いおこさせ、見ていると一瞬時が止まる気がしてくる。賑やかな銀座の通りにある展覧会、ふらりと寄ることができる会場だが、一人で見て頂きたい展覧会でもある。もちろん誰かと一緒に観るのも良いのだが、言葉にして語り合う前に、流れに飲まれてしまう贅沢な時間を味わって頂きたい。連れと一緒に、作品に飲まれて黙ってしまう体験もまた、作品を観る楽しみ方の一つだろう。


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