今村朋代 展 |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2010年 2月 25日 |
今村朋代は1986年福井県生まれ。現在福井大学大学院教科教育専修美術専攻在学中。今回当ギャラリーで初めての発表となります。 今村は、コンタクトレンズのくもりによって目まいを引き起こした経験から、視覚が身体に及ぼす影響を表現しようと考え、「見えにくさ」をテーマにした作品を展開しています。路上や海などの身近な風景を、濡れたガラスや曇りガラスなどを通して撮影した風景写真を版画紙にプリントし、その上に版画技法の一種、カラーエッチングを重ね刷りして、さらに見えにくくした「フォトベースドエッチング」と名づけた独自の技法で作品を発表してきました。 今回の個展でも同じく「見えにくさ」をテーマに、作家の生まれ育った“湿度”のある福井という土地の、雨でにじんだ風景を撮った写真をもとに描いた、淡いペールトーンの油彩7点を展示いたします。雨によって光が屈折し、ものの輪郭線が歪んだ世界は、見えにくさやもどかしさ、不安感を与えながらも、世界を一つの“映像”として再認識させ、不思議な感覚を呼び起こしてくれます。
【プロフィール】 個展: 2009年 今村朋代展「めまい」表参道画廊(東京)、今村朋代展「見えにくくなって、見えてくる」E&Cギャラリー(福井) ※全文提供: ギャラリー58 |
最終更新 2010年 3月 01日 |
個人的なことに迷ったり、日常の些細なことに疲れたりした時に是非お勧めしたい展示。そんな時には、商業ビルの立ち並ぶ賑やかな大通りから一本奥の、静に佇むギャラリー58に逃げて欲しい。本展覧会は、一旦立ち止まって周りを見直す姿勢を思い出させてくれる。一人でも良いし、心の許せる人と、あるいは何か話したいことがある人と一緒に行くと素直に話せるかもしれない。
展示されているのは油絵8点と、写真に版画を施した作品2点の全10点。モチーフは主に車道の風景だが、雨のせいか立ち眩みか、ぼやけている。作者の、ぼやけたコンタクト装着時の体験がきっかけで生まれた作品群は、「視界のぼやけそのものを自らの手で描きたかった」という制作の発想が面白い。「見えていない」ということを見る行為で体験する不思議なパラドックスが、現場で作品を観賞する楽しさに繋がっていく。朧な風景は、風景が見えていないということではなくて、「朧な風景」をしっかりと見ているのではないか。観賞後にそんな自問をしながら日常生活に戻れば、自分の見ているものや見てきたものについて考えが変わるかもしれない。