| EN |

ルーシー・リー 展
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 2月 26日

《青釉鉢》1978年頃 個人蔵 Estate of the artist

20世紀を代表する陶芸家、ルーシー・リー(1902‐1995)。1938年以来、活動の場であったイギリスでは、同国の近代陶芸の巨匠バーナード・リーチと並び称される存在です。没後15年を経て、その評価はますます高まりつつあります。 文化が成熟した時期のウィーンに生まれたルーシーは、建築家のヨーゼフ・ホフマンや画家のコロマン・モーザーが教鞭を執ったウィーン工業美術学校に学びました。そこでろくろの面白さに魅了され、ほどなくその作品は国際的な展覧会で数々の賞を受賞し、作家としての地位を確立していきます。しかし、迫りくる戦争の足音とともに亡命を余儀なくされ、1938年、ロンドンに居を移すと、以後およそ半世紀にわたり同地で制作を続けました。 バーナード・リーチやウィリアム・ステート=マリーといった英国初期スタジオ・ポタリーの作家たちが作り上げていた、大陸とは異なる陶芸環境の中で、ルーシーは当時の先鋭的な建築やデザインの思潮とも響き合う独自の様式を確立していきます。 モダンデザインの思潮を色濃く反映した彼女の作品のフォルムは、きわめてシンプルにして清潔、そして素材と技法に密接に結びついた動感に溢れています。長年の研究成果から得たさまざまな釉薬や掻き落とし、象嵌などの効果も魅力的です。近代陶芸の興隆期にイギリスへと基盤を移したルーシーのコスモポリタン的な感性と、陶芸という造形の一ジャンルの本質を切り出すことに向けた熱意は、時代や国境を越えて、今もなお多くの人々を魅了し続けています。 本展では、国内外の優れたコレクションから選りすぐった約250点の作品に加え、ルーシー・リーの関連資料を所蔵する英国のふたつの研究機関、セインズベリー視覚芸術センターとクラフツ・スタディー・センターの協力を得て、直筆ノートや手紙、写真資料も多数展示します。とくに日本初公開となる釉薬ノートは、ルーシーの制作が高い専門知識と緻密な実験に裏打ちされたものであることを示す貴重な資料です。また工房に長年飾られていた朝鮮王朝時代の白磁の壺(バーナード・リーチ旧蔵、大英博物館蔵、東京展のみ)などの関連作品も併せて出品し、制作の背景を注意深く読み解いていきます。 初期ウィーン時代から円熟期に至るルーシー・リーの創作の軌跡を、豊富な資料とともにたどる本展は、没後初の本格的な回顧展となります。

巡回スケジュール(予定)
益子陶芸美術館 2010年8月7日(土)-9月26日(日)
MOA美術館 2010年10月9日(土)-12月1日(水)
大阪市立東洋陶磁美術館 2010年12月11日(土)-2011年2月13日(日)
パラミタミュージアム 2011年2月26日(土)-4月17日(日)
山口県立萩美術館・浦上記念館 2011年4月29日(金・祝)-6月26日(日)

最終更新 2010年 4月 28日
 

編集部ノート    執筆:平田剛志


ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ。ダイヤモンドのような釉薬の美しさ。その深く滋味ある色彩が私たちの目を楽しませてくれる。しかし、それは器だけの話ではない。本展に展示されているルーシー・リーが制作のために付けていた釉薬ノートや注文台帳を見てほしい。桝目に青いペンで書かれた彼女の筆記体による文字は、まるで陶器にひかれた線のように魅力的なラインを刻んでいるのである。

そして、ノートに詳細に書かれた研究成果や実験結果の記述から、ルーシーの作品はこのノートから生まれたことがわかるだろう。どこのメーカーが作ったものかわからないが、紙の厚さ、書きたくなるような紙質、ペンが作り出す筆跡を見ると、思考はノートから生まれることがわかる。ルーシー・リーのノートの取り方を見て、ノートの使い方を勉強してみたい。


関連情報


| EN |