| EN |

三宅砂織:image castings
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 2月 10日

《カーテン、ベッドルーム、ドア》2009年 gelatine silver print|80x80cm 画像提供:ワーカホリックス株式会社 copy right(c) Saori MIYAKE

三宅砂織は、写真やドローイングなどの平面作品を中心に制作していますが、中でもここ数年は「フォトグラム作品」に取り組み、多くの作品を発表しています。フォトグラムとは、カメラを使わずに印画紙の上に直接対象物を乗せて感光させる写真の技法です。三宅は、数枚の透明フィルムに描かれたドローイングやオブジェなどを、印画紙の上に配置して焼き付けます。作品に微妙なグラデーションが生み出され、独特の奥行きや質感が浮かび上がってきます。焼き付けの作業を行う時に、作家自身がドローイングの位置やそれぞれを乗せるタイミングなどをその都度調整しながら制作されるため、作品にはエディションはなく、すべてユニーク作品となります。

フォトグラム作品に描かれるのは、少女たちがベッドの上でする内緒話やカーテンの裏側で遊ぶ様子など、幼少期の記憶を再現したかのような夢幻的世界です。複数のフィルムを重ね合わせることで生まれる曖昧な線や強さの異なる大小の点は、星座のように瞬き、作品全体を幻想的に浮かび上がらせます。三宅は、フォトグラム作品の制作過程を、鋳型をとって製品を作る鋳造(casting)に似ていると言います。作品のイメージは常に変容しながらも、印画紙に流し込まれて、成型され定着されていきます。作家が捉えたふわふわとしたイメージを、フォトグラムという表現方法に流し込むことで、そこに漂う眩い光や空気までをも焼き付けたかのような、幻想的で浮遊感のある作品が生まれるのでしょう。

VOCA展は1994年に始まって以来、福田美蘭(1994年VOCA賞)、やなぎみわ(1999年VOCA賞)、村上隆(1994・2000年出品)、会田誠(1999年出品)、蜷川実花(2006年大原美術館賞)など国内外で活躍する作家が参加しています。今年の「VOCA展2010」で、フォトグラム作品がVOCA賞を受賞し、今後の活躍が期待される三宅砂織。本展覧会では、VOCA賞受賞後の2010年の新作を中心としたフォトグラム作品を発表いたします。尚、本展覧会会期中の2010年3月14日(日)~3月30日(火)まで、上野の森美術館にて「VOCA展2010 -新しい平面の作家たち-」が開催され、VOCA賞受賞作が展示されます。

三宅沙織
1975年、岐阜県生まれ。1998年、京都市立芸術大学美術学部美術科卒業 
。1999年、英国ROYAL COLLEGE OF ART 交換留学。
2000年、京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。2010年、「VOCA展2010」でVOCA賞を受賞。

※全文提供: ワーカホリックス株式会社

最終更新 2010年 3月 13日
 

編集部ノート    執筆:田中みずき


活躍の期待される平面作品を制作するアーティストに贈られるVOCA賞の2010年度大賞を受賞した三宅砂織の個展。展示作は、三宅の使っている技法「フォトグラム」(後述)で作られた新作の平面作5点と、旧作1点、実験作などを使ったインスタレーション1点。  新作で見られるモチーフは、作者が長年向き合ってきた、少女等。黒い画面に白く浮かぶ線が儚さを感じさせる。女性にお勧めと思いつつ、美術ファンにも是非見て頂きたい。三宅の使う「フォトグラム」とは、印画紙の上に、作者が描いた絵や小物を置いて写しこむ技法だ。「写真」と「絵画」という概念を再考させる一面があり、美術史の流れの中でも重要な試みがなされていると言えるだろう。  技法がコンセプトに繋がり、理論的にしっかりと確立されている。ただし、作者の作品の強さはそれだけに留まらない。初めて観るなら、美術史云々は忘れて、まず、作品の前に立って眺めてみて欲しい。皮膚感覚や記憶、不思議な空間の広がりなど、言葉に収めきれないものがしっかりと写しこまれているのだ。例えば、作品中、シーツやカーテンを描いた線は作者の弧を描くような手の動きの痕跡でもあり、布を掴む一瞬の感触を連想させる。印画紙に置いて写しこまれた布片や宝石のようなものは、女性なら自分の持っていたものを思いだし、自らの記憶にも繋がっていくだろう。  飲食店なども多いこの界隈、春の日に寄り道するのに楽しい場所でもある。ギャラリーでは美術関連書籍や人気作家の作品をモチーフにしたグッズを販売していて、それらを見るのも面白く、一緒に行った人との雑談も問題無い。展示作以外の作品も販売しているため、ギャラリーに頼めば観ることができるそうだ。


関連情報


| EN |