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"セルフトート・アート"の作家たち:アウトサイダー・アートの核心へ
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 2月 14日

塔本シスコ《馬入れ川》2001年|油彩・キャンバス 130.0 x 162.0 cm|画像提供:YOD Gallery copy right(c) Shisuko TOHMOTO

近年、日本でも「アウトサイダー・アート」の名称が認知されてきております。美術館の企画展の開催をはじめ、専門のギャラリースペースも立ち上がるなど、社会的にも注目を集めている背景には、格差社会が顕著となっている日本の現状に対するアンチテーゼのように思えます。正規の美術教育を受けていない、つまりはアカデミズムという権威から距離を置いた環境で作品を制作することが本来のアウトサイダー・アートの基準です。しかしながら日本のアウトサイダー・アートは、主に障がいを持つ人々が作り出す作品・行為にその関心が集まっている現状があります。障がい者への社会福祉活動という観点では多大な貢献をしていますが、彼らが作り出す作品そのものに対する評価はまだ確立されていない部分もあり、現在さまざまな形でアートの枠組みへのアプローチがなされてます。 今回ご紹介する"セルフトート・アート(self-taught art)"とは、美大などでアカデミックな美術教育を受けず、自発的に独学で制作を始めた人たちの作品をさすものです。欧米ではアウトサイダー・アートのジャンルの一つとして、明確に定義されています。"セルフトート・アート"の作家の特徴は、人生の中で何らかの大きな出来事・経験をきっかけに、これまで見向きもしなかったアートの世界に関心を持ち制作を始めたことにより、アートに対する切実感が非常に強くあります。制作をし続けないと自己の存在を保てないほどの強迫観念の中で作品が生まれることにより、強固な作家と作品の間の関係性が成立し、固定概念にとらわれない斬新で生命感あふれた表現が作品上で展開されているのです。 当展は、"セルフトート・アート"をキーワードに、それに該当する3名の作家をご紹介し、改めてアウトサイダー・アートの本質を考察し、アートとしての問題点や今後の展望を見い出すものです。素朴派の代表的な作家として知られ、"セルフトート・アート"を象徴する作家、故・塔本シスコ氏の作品とともに、新進の若手作家野中陽一郎、蛇目の2名の作品をご紹介いたします。世代は大きく違うとはいえ、それぞれ独学で見出した独自の表現スタイルには、アウトサイダーの前提を忘れるほどの衝撃かつ私たちが希求するアートの進化への可能性が秘められています。 また会期中には、日本を代表するアウトサイダー・アートの研究者のお一人で知られる、兵庫県立美術館学芸員の服部正氏をお招きし、"セルフトート・アート"の視点から日本のアウトサイダー・アートの諸問題を語っていただくトークイベントも開催いたします。 近年の情報化社会によって、従来の定義通りの純粋なアウトサイダー・アートは成立しえない現在にあります。私たちは"セルフトート・アート"の存在を通じて、改めてアートの原点である作品そのものの価値を再考することが求められていると考えます。ぜひこの機会にご高覧賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。 野中 陽一郎(Yoichiro Nonaka)
1977 和歌山に生まれる。出生時から色弱を患う
1990 アトリエ椋の木(和歌山)で家具製作を始める
1996~98 ロンドン語学留学。帰国後、画家を目指す
1999 個展(橋本画廊・和歌山、'00)
2001 個展(金剛ARTSPOT空・大阪)
2002 個展(近鉄百貨店・和歌山)
2003 個展(松菱百貨店・津)
2004 曼荼羅展(高野山常喜院・和歌山)
2005 スパンキー展(FARMHOUSE CAFE・神戸)
2006 野中陽一郎展(淀画廊・大阪)
親子展(ギャラリーら・むー・大阪) 蛇目(Hebime)
1982 神戸市に生まれる
1998 高校中退
 以降鬱病による引き篭もり状態の中で、絵を描き始める。ダリ、エルンストなどシュルレアリスムの影響を受ける
2000 ゴッホの影響から現在のペン画の技法に移行。
2007 関西美術文化展 ハートアンドアート賞
2008 個展(アートスペース亜蛮人・大阪)
2009 個展(VIVANT ANNEXE・東京)、ART STREAM 2009 (サントリーミュージアム天保山・大阪) YOD Gallery賞受賞 塔本 シスコ(Shisuko Tohmoto)
1913 熊本県上益城郡松橋町に生まれる。
1961 軽い脳溢血で倒れ、手足と心のリハビリをかねて石を彫りはじめ、徐々に回復。
1963 家にある画材で絵を描き始める。
1969 具現美術協会でカワチ賞・奨励賞を受賞。塔本シスコ・賢一母子展(ギャラリーピサーノ・大阪)
1970 長男賢一と同居のため上阪。この頃から旺盛な制作がスタート。
1992 画集「塔本シスコはキャンバスを耕す」出版 (2000年、第2巻出版)
1994 個展「塔本シスコはキャンバスを耕す」(滋賀県立八日市文化芸術会館、ハーモ美術館・長野、熊本県立美術館分館を巡回)
1996 「芸術と素朴」(世田谷美術館・東京)
2000 「『素朴』って? ライフ&ビジョン」(愛媛県美術館)個展「塔本シスコはキャンバスを耕す」(知恩院・佛教大学四条センター・京都)
2001 貧血で倒れ、その後認知症を発症するが、制作は意欲的に続ける。「共に生きるということ」(水口文化会館・滋賀)
2002 「ナイーブな絵画」(福岡市美術館)
2005 逝去
2006 「快走老人録」(ボーダレスアートミュージアムNO-MA・滋賀)
2008 「ピクニックあるいは回遊」(熊本市現代美術館)「マイ・アートフル・ライフ~描くことのよろこび~」(川口市アートギャラリーアトリア・埼玉、京都造形芸術大学ギャルリオーブ・京都を巡回)
2009 「シスコ美輪明宏を描く」(ぎゃらりぃ西利・京都)「三人のグランマ展 一生花時」(ハーモ美術館)
〈パブリック・コレクション〉 世田谷美術館、熊本市現代美術館 ※全文提供: YOD Gallery

最終更新 2010年 2月 13日
 

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