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栃原比比奈:ジキル&ハイド2重人格
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2009年 12月 25日

右:COCKYシリーズ原画 19.8×18.0cm アクリル絵具 ボード 2009|左:無題  194×194cm 油彩 キャンバス 2001|画像提供:ギャラリー山口

ギャラリー山口/気体分子ギャラリー共催栃原比比奈の初個展。栃原比比奈は1977年3月3日生まれです。雛祭りの起源といわれるものに「比比奈遊び」というものがあって、栃原は3月3日の雛祭り(ひなまつり)に生まれたので、比比奈(ひいな)という名前を親に付けられたのでした。

1997年に多摩美術大学絵画科油画に入学して、大学4年生の2000年から中野区の知的障害者施設でスタッフとして働き、ダウン症や自閉症、重度の知的障害者などが絵を描くプロセスとその作品の研究しています。この研究は2001年に多摩美術大学を卒業しても2003年まで続いていますが、これら障害者の絵画には、障害ごとに共通する構造的な特徴が現れている事を発見し、この発見で、ひとつの結論に達して研究を終えます。栃原比比奈の作品にある「できやよい」や「草間彌生」といった《ヤヨイ系》の感覚は、この《障害者》の美術に芸術の根拠を見る試みをくぐっているところにあると言えるかもしれませんが、向う方向は《ヤヨイ系》とは反対の《正気》に芸術の根拠を見いだして行く運動に反転するのです。ですから栃原比比奈の点描を執拗に打つ事で成立する絵画は、「草間彌生」的というよりは新印象派のジョルジュ・スーラや、スーラの影響ではなく独自に点描画法に達した岡鹿之助の系譜と言うべきものです。そこには自らの比比奈という名の起源である「比比奈遊び」という男雛と女雛をくっつける遊びが持つ性的な連想が顔を覗かせるのですが、同時に非在感や非実体性を持っていて、現代的な空無の感覚があります。

一方、栃原比比奈は、大学卒業後に文房具などステイショナリーグッズの会社であるSan-X/サンエックス(株)にキャラクターデザイナーとして入社するのですが、今回出品するCOCKYは、入社試験のための作品として生み出されたキャラクターでありました。COCKYは、臼井儀人の『クレヨンしんちゃん』や、駅型ショッピングセンターの株式会社ルミネのキャラクターである「ルミ姉」を連想させるネガティブ・キャラです。COCKYは入社した当時のSan-Xの常務取締役であった片桐 勇氏に評価されて、栃原はSan-Xに入社することになるのですが、COCKYは、そのあまりのネガティブ・キャラのために、商品としては実現されずにお蔵入りになりました。それもあって2年10ヶ月でSan-Xを退社して、油彩画家としてのデビューを目指す事になります。

今回の初個展では、点描画法による作品群とCOCKYというキャラクター絵画という2種類の作品を、同時に発表するものです。それは栃原比比奈が、ロバート・ルイス・スティーヴンソンジの『ジキル博士とハイド氏』という小説にあるような善人と悪人の2重人格者/解離性同一性障害者であることを示しているのかもしれません。
- 彦坂尚嘉

※全文提供: ギャラリー山口

最終更新 2010年 1月 25日
 

編集部ノート    執筆:平田剛志


今月末で閉廊するギャラリー山口最後の展覧会の1つがこの栃原比比奈の初個展である。 会場には点描で描かれた抽象的な油彩作品とCOCKYなるキャラクターが描かれるキャラクター絵画が同時に展示されている。それぞれの作品は世界観がまったく交差せず、とても同一人物による制作とは思えない作品ではあるが、この断絶こそ現代の美術状況を如実に反映しているのかもしれない。 しかし、人生で1回しかできない初個展を、閉廊するギャラリー最後の展示で行うというジキル&ハイドのような状況は、幸か不幸か本展にとって象徴的な出来事に思われる。


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