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楢橋朝子:近づいては遠ざかる
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 11月 22日

≪ドバイ・クリーク≫2009年|画像提供:オシリス

≪ドバイ≫2009年|画像提供:オシリス

1989年の初個展「春は曙」から20年間、余り振り返ることもなく、気がつけば毎年新作を発表してきた。今回、安藤忠雄氏設計による2階まで吹き抜けの魅力的なコンクリートの空間に出会い、20年というこの節目の年に、海外で撮影した「half awake and half asleep in the water」や街中の最新作と、原点ともいうべき最初期のモノクロシリーズを同時に見てみたいと思った。「春は曙」は、初めて撮影のために日本のあちこちを精力的に旅した時期の、個人的に特別な意味を持つ写真群だ。「half awake and half asleep in the water」は2000年から始めたシリーズで、今回は街中も対比させ展示しようと思う。89年の桜島、有明海、竹富島、津軽、三宅島、御蔵島、東京と、2008、09年のドバイ、珍島、ニューヨーク、パリ、ケルン、淡水の海岸線や都市景とが、どのように呼応するのか。時間と空間がどう絡みあうのか。
-楢橋朝子

本展は、これまでの作家の個展としては最大規模となる約50点の写真作品で構成。上記の作家コメントにもあるとおり、写真家として活動を始めた最初期の1989年のモノクロ作品と、2008 年と2009年に撮影されたカラーの最新作が併せて展示されています。

楢橋朝子(1959年、東京生まれ)は、80年代半ば、写真家たちが作品について話し合ったり、暗室を共有したりする場として活動していた「フォトセッション」に参加。そこでの森山大道や深瀬昌久との出会いは、その後の写真家としての道を方向付けることになったと言えます。作品制作を模索する中で1989年に初めて個展形式で発表されたのが、大型プリント(100×150cm)と発表当時のプリントで今回展示されるモノクロームのシリーズ、《春は曙》です。翌1990年からは、自らの作品を展示する空間としてギャラリー「03Fotos」(ゼロサンフォトス)を設立。いつでも好きなときに新作を展示できるこの空間で、楢橋は90年代を通しておよそ30回の個展を開催し、膨大な数の写真を発表していきました。《NU・E》をはじめとする楢橋の初期活動の基点となる作品群が、まさに本展で20年ぶりに発表される《春は曙》シリーズです。

さまざまな土地の海岸線で海側から陸側を眺めたシリーズ《half awake and half asleep in the water》は、楢橋がカラーで作品を撮り始めてから間もない2001年に東京都写真美術館のグループ展「手探りのキッス」で初めて発表されました。以降、継続して撮影され、2007年にはアメリカの出版社ナツラエリ・プレス(Nazraeli Press)から刊行された写真集『half awake and half asleep in the water』にまとめられ、とりわけ最近はニューヨーク、ケルン、ストックホルムと連続して個展が開催されるなど国内外で広く知られ、高い評価を得ています。同シリーズは、これまではそのほとんどが国内で撮影されてきましたが、本展では、ドバイ、韓国の珍島(チンド)、台湾の淡水、パリ郊外のクレティーユなどで撮影された《half awake and half asleep in the water》の海外篇とも呼べる作品群が初めて展示されることになります。

作家によれば、2009年の春、海岸線での撮影を念頭に出かけたドバイでこの街の特別な空気に触れて、予期せず多くの街の写真が撮影されることになったそうです。新作のもう一つのグループをなすのが、大規模な開発と世界金融市場の混乱で揺れる中東ドバイの都市景観の作品群です。波間に漂いながら撮影されている《half awake and half asleep in the water》の浮遊感覚がドバイの市街地でも持続しているかのような作品でもあり、この新作の二つのグループが見せる海と陸は、互いに対照をなしながら、同時に共振し合っています。

天井高4メートルの空間での本展の展示構成はすべて作家自身によってなされていますが、初期から最新作までというレトロスペクティヴな視点からではなく、むしろ、1989年の眼差しを2009年の新作の方に引き寄せながら、楢橋朝子の現在を見せることが試みられています。まさに時間軸においても空間軸においても「近づいては遠ざかる」なかに、作家自身は、そして観客も身を置くことになることでしょう。

※全文提供: オシリス

最終更新 2009年 9月 05日
 

編集部ノート    執筆:平田剛志


楢橋の1989年の初個展『春は曙』と2009年の『half awake and half asleep in the water』の最新作及び都市を撮影した新作が安藤忠雄設計によるコンクリート空間に展示される。20年という時を隔てて展示される2つの写真シリーズは、2階建ての吹き抜け空間に「近づいては遠ざかる」ように、時空を越えて都市の異なる相貌が見えてくる。また、1階壁面に横並びに展示される『half awake and half asleep in the water』と都市の写真は、水のイメージが都市へと浸食し、たゆたうような揺らぎを作り出すのが印象深い。


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