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ポーレッタ M. チャンコ:リバース
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2014年 2月 03日

Blossoming Out of Darkness, 2013, 15.5x12.8cm, 6 1/8x5in., pastel on paper
©2014 Pauletta M. Chanco

ポーレッタ・チャンコと言うアーティストを知ったのは私がUC Berkeley芸術学部に学んだ時の名誉教授、Karl Kasten氏の紹介によるものであった。
Kasten氏は抽象表現主義に深い造詣を持つ人物であり、私の在学中にWillem de Kooning, Jackson Pollock, Hans Hoffman, Franz Kline等のアーティスト達の作品について熱く語り、抽象絵画の見方の基礎を作ってくれた人物と言っても過言ではないであろう。

私の映像芸術への興味からUC Berkeleyを去り、UCLAに転校し、そして卒業後ギャラリー・ショウを開廊してからもKasten氏との親交は続き、様々なアドバイスを頂いた。その中でKasten氏の教え子でもあったフィリピン出身のポーレッタ・チャンコの制作アプローチは私の心を強く打ち、1999年10月に初めて彼女の個展をアーティストの来日をもってギャラリー・ショウで行う運びとなった。

チャンコの作品への想いはなんとも私にとって呪術的であり、原始的だ。それは彼女が抽象的に描く作品を蜜蝋で封じ込めてしまう技法を使うからであろうか。
その技法はJasper Johnsが自らの作品を蜜蝋で封じ込める、言わば作品の表面を保護する目的とは根本的に違う、彼女自身が自分の作品をあえて原始的に見せようとしている意図が強く感じられる。

そうしたアプローチで作品を作り続けてきたチャンコから昨年2013年に驚愕すべきメールを貰った。内容は『自分は乳癌のステージ4で余命幾ばくもない。最後にショウのところで展覧会ができたら思い残す事もない。』というものだった。このメールの直前にもう一人、別の知り合いのアーティストが事故で溺死したニュースを耳にしたので、余計チャンコからの衝撃的な一報が私の心を強く揺さぶった。

私が彼女に対してできることがあるとすれば、余命が迫っている彼女の最近の作品を少しでも多くの方々に観てもらうこと位であろう。

彼女から送られてきたアーティストの言葉をもとに、今回は近作のパステル作品を中心に展示しながら、過去の蜜蝋を用いた作品やChine ColleeやCollage, Assemblage技法を取り入れた作品なども含め、ポーレッタ・チャンコの全容がわかる展覧会を構成し、アーティストの意志に報いたいと思う。

後は彼女の生命が一日でも長く家族とともにあって欲しいと心から願うことしかできない。

ギャラリー・ショウ・コンテンポラリー・アート
ディレクター 佐竹 昌一郎

[作家コメント]
今回展示する小さいパステルの作品は、古い作品からの旅立ちを意味しています。それらの作品は全て、最近訪れたパリで購入した、モネや他の多くの印象派の作家達が使った道具で制作したものです。

小さいパステルの作品はじめ、今年制作した作品は、私が死と向き合いながらつくったものです(私は2013年5月、ステージ4の乳がんと診断されました)。「リバース」というテーマは昔の私、つまりはとても健康で、若くして死ぬなど考えもしなかった自分と、今の私、つまりは自分が考えていたよりもずっと短い命を、いかに有意義に生きるかを考えなければいけない自分、という、ふたつの自分の展示という意味でとても合っていると思っています。

精神的かつ創造的な立場で新しい自分を探す中、病気になり沢山のものを放棄しなければならないという人生の一大事は、私にまったく新しいものの見方をさせました。今、何が本当に大切なものなのかーそれは、死の存在が以前よりも少し近くなった画家として、心の底から湧き出るものを制作し続け、今、存在すること、そして愛する事なのです。

ポーレッタM.チャンコ


全文提供:ギャラリー・ショウ・コンテンポラリー・アート
会期:2014年2月10日(月)~2014年3月1日(土)
時間:11:00 - 19:00(土曜11:00 - 17:00)
休日:日・祝
会場:ギャラリー・ショウ・コンテンポラリー・アート
最終更新 2014年 2月 10日
 

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