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長谷川ちか子:穴 - Punica Granatum
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 7月 30日

≪Halls - Punica Granatum≫(detail)2009年|acrylic on canvas mounted on panel|42x29.7x3.4cm|画像提供:レントゲンヴェルケ copy right(c) Chikako HASEGAWA

自身の身の内にあるものを、身の外にあるように感じること
自身の身の外にあるものを、身の内にあるように感じること

黒く縁取られた胃や腸などの内視鏡写真を目にすることは、珍しくはなくなった。原子顕微鏡を使えば、人類が決して肉眼でみることができない細胞の世界すら、覗くことができる時代になった。写真や映像をみることによって、私たちは皮膚の下、それぞれの身の内にあるものを、まるで外の世界を覗き込むようにみつめる。

不思議なことに、そこに写し出されているイメージは私たちの内部にあるもの、この瞬間も蠢き働く器官であるにも関わらず、実際に身体から感じている印象とどこか違う気がするのは私だけだろうか?それよりも熟れた石榴を剥きながら目にする、赤みが透ける半透明の薄い皮、その裂け目から覗くみっちりと詰まった無数の果肉に、人体の肉、器官、機能を感じ、その生々しさに生理的な嫌悪感を、そして同時に妖しい魅力を感じてしまう。なぜだろう、石榴の果実にこのような身体を感じることは。
- 長谷川ちか子

長谷川 ちか子(1970年、新潟生)は、女子美術大学大学院美術研究科美術専攻を修了後、2000年から「贈り物」(英語)、「毒」(独語)という意味を同時に持つ逆説的な単語である「ギフト」をタイトルとして、古今東西の毒にまつわるテーマをモチーフとした作品を制作、発表。毒を持つものの美しさと危険性の表裏の視覚化に挑みました。

2002年に平成14年度文化庁新進芸術家国内研修員をつとめ、2006年より2年間、文化庁平成18年度派遣新進芸術家海外留学制度研修生として渡英、渡英中にロンドン大学ゴールドスミスカレッジファインアートMAを2008年に修了し、本年帰国しました。現在、東京を拠点に制作をしています。

帰国後初の個展となる今回、長谷川が着目したのは「穴」でした。比喩的に連想できる身体の部分、覗くという行為、歪んだ記憶や経験、またそれらが存在している場所等々、「穴」はこちら側とあちら側をつなぐ、重要な媒介です。長谷川はそこに言い様のない生理的な感覚の魅力を見いだし、自らの原点とも言うべき、絵画によって、その魅力を引き出そうとしています。2005年以来、約4年ぶりとなる長谷川ちか子のラディウムに移転して初、また、レントゲンでは初挑戦のペインティングのみによる個展に是非ともご期待下さい。

全文提供: レントゲンヴェルケ

最終更新 2009年 9月 04日
 

編集部ノート    執筆:小金沢智


「Punica Granatum」とは石榴の学名である。しかし長谷川の作品は果実としての石榴を飛び越えて、より根源的な生命の姿を生々しくも発露しているかのようだった。黒地の中ぽかりと空いた穴のごとくでその内で蠢くのは、あたかも皮膚を一枚剥いだ先にあらわれる血を伴った私たちの肉そのものである。覗き穴のような形も演出して、作品によっては女性器を連想する人もいるかもしれない。もはや人前で見ることすら憚られる、官能的な世界がそこにある。


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