1960 年、ニューヨーク・ブロンクス生まれのグレン・ライゴンは、ペインティング、ネオン、シルクスクリーン、写真、インスタレーション、ビデオといった、多岐 にわたるメディウムを用いて制作しています。なかでも、代表作として最も知られている作品は、1980 年代後半から制作され始めた、テキストを用いた抽象画のシリーズです。 ステンシルを用い、黒のオイルスティックで文字が繰り返し描かれたそれらの作品は、過剰なまでの厚塗りで画面が隆起し、何層ものレイヤーが重なることでカ ンヴァス上の文字はほぼ判読不能な状態となっています。
人 種やセクシュアリティ、アイデンティティを問う面がしばしば強調されがちなライゴンの作品ですが、一方で、従来のモダニズム絵画やコンセプチュアル・アー トの潮流に基礎をおきつつ、批評性をもって制作されています。また、アメリカ文学から絵本、そして奴隷体験記に至るまで、幅広いソースから引用されたテキ ストやイメージを用い、アメリカの歴史や文化に対する鋭い考察をもたらしてもいます。
本 展では、Stranger シリーズのテキスト・ペインティングと、ガートルード・スタインの小説「3 つの女 Three Lives」(1909)から引用されたフレーズ「negro sunshine」を、オイルスティックと粉炭で繰り返し描いたドローイングを展示します。
Stranger シリーズは、一人のアフリカン・アメリカンとしてスイスの小村を訪れた時の経験を綴った、ジェームズ・ボールドウィンのエッセイ Stranger in the Village(1953)を引用した作品です。粉炭が塗り込められたその作品は、カンヴァスに独特のテクスチャーと照りをもたらすだけでなく、粉炭が石 炭加工時に余剰として出る産業廃棄物でありながら、マテリアルとして黒光りする粉炭の美しさとのコントラストを浮き上がらせてもいます。 ライゴンのペインティングやドローイングでは、モノクローム、ステンシル、テキストの反復といった形式的な面と、テキストそれ自体が保有する感情的な面と の間で対話が生み出され、引用されたテキストは抽象的なコンポジションへと変容させられています。また、言葉の影響力やひとつの言葉が世代間で異なる意味 を持つことへの興味、そして文化・歴史と切り離せない自己やアイデンティティといった概念を変化させることに対する作家の関心が、それらの作品には如実に 現れています。
本 展ではまた、2 つのネオン作品、Double America (2012)と、今回が初めての発表となる Untitled (Orpheus and Eurydice) (2013)を展示します。2005 年からライゴンは、歴史的なテキストを引用したネオン作品を制作しています。文字の前面が黒く塗られているために、ネオンの光は鑑賞者側にではなく背面の 壁へと柔らかく広がるように作られています。ネオンが作り出す黒と白の対比は、人種・社会・政治的問題の複雑さへの隠喩であるとともに、光と影、見えるも のと見えないもの、生と死、といった相反する概念への思考をもたらすものでもあります。 ライゴンの作品はこれまで、ホイットニー・ビエンナーレ(1991、1993)、ヴェネチア・ビエンナーレ(1997)、ドクメンタ11(2002年)で 展示され、2011年には回顧展「Glenn Ligon: America」がホイットニー美術館で開催され、その後、各地へ巡回するなど、個展も数多く開催されています。また近年では、オバマ大統領のセレクトに より、ホワイトハウスへの貸出が決まるなど、華々しく活躍している作家です。
[作家プロフィール] Glenn Ligon (グレン・ライゴン): 1960 年 ニューヨーク・ブロンクス生まれ、ニューヨーク在住。
学歴 1985 年 Whitney Museum Independent Study Program(ニューヨーク) 1982 年 Wesleyan University(コネチカット州・ミドルタウン)美術学士取得 1980 年 Rhode Island School of Design (ロードアイランド州・プロビデンス)
近年の個展 2012 年 Glenn Ligon: Neon, Luhring Augustine(ニューヨーク) Glenn Ligon: AMERICA, The Modern Art Museum, Fort Worth(フォートワース) 2011 年 Glenn Ligon: AMERICA, Los Angeles County Museum of Art(ロサンゼルス) Glenn Ligon: AMERICA, Whitney Museum of American Art(ニューヨーク) 2010 年 Glenn Ligon, Michael Stevenson Gallery(ケープタウン) 2009 年 Nobody and Other Songs, Thomas Dane Gallery(ロンドン) Off Book, Regen Projects II(ロサンゼルス) 2008 年 Figure/Paysage/Marine, Yvon Lambert(パリ) Love and Theft, Power House Memphis(メンフィス)
近年のグループ展 2012 年 TERRAIN: Selected Works from the Linda Pace Foundation Collection, Linda Pace Foundation(サンアントニオ) The Residue of Memory, Aspen Museum of Art(アスペン) WEIGHTED WORDS, The Zabludowicz Collection(ロンドン) Self-portraits, Louisiana Museum of Modern Art(フムレベック) National Academy Annual Exhibition, National Academy(ニューヨーク) Distant Star/Estrella Distante, Kurimanzutto(メキシコシティ) The Painting Factory: Abstraction After Andy Warhol, Museum of Contemporary Art, Los Angeles(ロサンゼルス) Invisible, Hayward Gallery(ロンドン) 2011 年 Collecting Biennial, Whitney Museum of American Art(ニューヨーク) Jean Genet, Nottingham Contemporary(ノッティンガム) 30 Americans, Corcoran Gallery of Art(ワシントン D.C.) Seeing Gertrude Stein: Five Stories, Contemporary Jewish Museum(サンフランシスコ) Human Nature: Contemporary Art from the Collection, Los Angeles County Museum of Art(ロサンゼルス) The Last First Decade, Ellipse Foundation(ポルトガル) Robert Mapplethorpe: Night Works, Alison Jacques Gallery(ロンドン) 2010年 Until Now: Collecting the New (1960-2010), Minneapolis Institute of Arts(ミネアポリス) Mixed Use, Manhattan: Photography and Related Practices, 1970s to the present, Reina Sofia(マドリード) Huckleberry Finn, CCA Wattis Institute(サンフランシスコ) Substitute Teacher, The Atlanta Contemporary Arts Center(アトランタ) Hide/Seek: Difference and Desire in American Portraiture, National Portrait Gallery(ワシントン D.C.) Contemporary Art from the Collection, Museum of Modern Art(ニューヨーク) El Gabinete Blanco, Fundacion/Coleccion Jumex(メキシコシティ)
全文提供:ラットホールギャラリー
会期:9 March – 30 June 2013 時間:12:00 - 20:00 closed on Mondays 会場:RAT HOLE GALLERY
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