STREET PHOTOGRAPHS-写真になって初めてみえてくるもの。 |
展覧会
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執筆: 記事中参照
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公開日: 2011年 7月 23日 |
山方伸・林隆文・齊藤明彦の写真展。
写真を目の前にした時、「何が写っているのか?」ということに着目することがあるだろう。 「被写体は何であるか?」 しかし、写真を観る上でこのことは重要であろうか? もちろん、どういった目的の写真かということにもよるのだが、少なくとも今回の、齊藤明彦、林隆文、山方伸の作品にとっては、一般概念が示すところの“写っているもの”それ自体の意味は重要でない。 つまり、「何が写っているのか?」ということではなく、「何がみえるか?」「如何にみえるか?」ということに着目してもらうことが今回の展覧会の一つのテーマともいえる。
齊藤明彦が今回発表するのは、継続して制作を行なっているシリーズ「静物」の作品である。 「静物」と題しながらも、いずれも人を見つめる視線だ。 見つめる先にある人は、人間であるにもかかわらず、まるで静止した固まりに見えてくる。 人が“静物”として捉えられたことで、本来もつ人間の意味を脱ぎ捨て、現実を遠ざけている。 齊藤が写し出した“静物”が背景を凍結させ、見慣れた景色を違う世界へ変貌させたかのような不思議な光景を感じずにはいられない。
林隆文の作品は潔い。興味のあるものにストレートに向かい凝視する眼差し。 一つのモノに近づいて見たいという欲望が周囲を拒絶し、カメラを縦にすることで視界を狭め一点に集中している。 にもかかわらず、写真という平面になった時、見たかったはずのものは予想外に描き出され、見たかったはずのないものが写り込んでくる。しかし、期待に反した像は肉眼が認識していたものを超越し、かえって生々しく立ち上がってきて圧倒されるほどだ。
山方伸はこれまでに風景をしっかりと捉えた作品を数多く発表してきた。 その空間構成は今回の作品にも同様にみることができる。 山方の視点に立ったときに見出される、作品の中へと続く抜け道が開放感を与え、息苦しさを感じさせない。 よく観ると、人と人との間、あるいは人の向こうや手前にある心地よい空間に写り込んでいる、むしろ、意図的にしっかりと写し込んでいる、ちょっとした奇妙なものに気付き、その複雑な構造に驚かされる。
彼らのカメラアイが見つめるのは、本来ある意味とも違う、期待したものとも違う、認識していたものとも違う、予想外のもの。 写真には、いかに人間の眼に意外で、不可解で、興味深いものが配置され、存在するのかということである。 普段気にも留めていないものをじっくりと見つめられるということが写真の最大の魅力の一つである。 シャッターを切ったのと同じ一瞬の時間に、視界の中で肉眼がしっかりと把握して捉えられるものは一体どれだけあるだろうか? おそらくそれは、ほんの一部分、例えば人が写っている写真ならば、一人の人の顔の部分だけだろう。 しかし、ひとたび写真になれば、人の表情や動作、衣類、背景、モノの配置や位置関係、状態、質感、想像できる触感など、視覚を通して感じることが可能になる。 写真には、現実を越えてみえてくるものが確かに写し出されている。 「何がみえるか?」「如何にみえるか?」 ただ、じっと写真を見つめれば、写し出された世界は新しい発見に満ちている。 この展覧会はストリートフォトグラフィーの一つの観方の提案である。 また、写真を細分化する分野の垣根を取り払い、写真を観るおもしろさの根源へ立ち帰るために投じる一石になればと思う。 -小寺 規古
全文提供: TAP Gallery
会期: 2011年9月6日(火)-2011年9月18日(日) 会場: TAP Gallery
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最終更新 2011年 9月 06日 |