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中井章人:闇の中で目を閉じる
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 9月 16日

《細粒化するふたつの痕跡》2010年
油彩、キャンバス|72.7 x 91.0cm
画像提供:ギャラリーモモ|Copyright © Akito Nakai

中井章人は1984年三重県生まれ、現在東京藝術大学絵画科油画専攻に在学中、2009年同大学久米賞展にて久米賞を受賞しました。彼は厳密に選ばれた油絵具を使用し、微細な歪みをも許さない支持体と、完璧なまでに清掃されたクリーンな部屋で、わずかな埃さえ許さずに制作に向かいます。そのことで画面は緻密を極め深みのある色面を醸しだしています。

また彼は自らの作品について錯感という造語を当てていますが、描く対象からその物の持つ要素の一部を欠落させ、あるいは別の要素を加えることで、本来その物が持つアイデンティティーを、鑑賞者に別の物として知覚させ、惑わせようとします。

私たちは普段見慣れたものに対し疑うことのない眼差しを向け、その物の持つ特徴を素直に受け入れます。しかし僅かに変化させることにより、表面的な要素は崩壊し、それまで見えていたものが見えなくなり、見えなかったものが見えるようになって、対象物を新たな視線で見つめなおし、その物の持つ多様性と本質を再認識することになります。

彼の描くもの、あるいは造られるオブジェは、そうした意図を持って鑑賞者に迫り、物の持つ本質への眼差しを深め、広げる契機となるでしょう。初個展となる今展ではそうした平面作品約15点、立体作品数点による展示を予定しています。この機会にぜひご高覧下さい。

人は五感によって収集した情報を元にして目前の対象物の正体を推測しているが、それはいくつかのパーツを組み合わせることによりパズルに描かれている図像を特定しようとする試みに似ている。 もれなく我々がその姿を正しく識別するためにはいくつかの決定的な特徴を示すパーツを必要とするが、収集した情報群の中からそれらが抜け落ちていたり、あるいは不要なものが混入していたりするならば、たちまちその正体を正確に判別することが困難となる。 そうして判然としない状態へと意図的に操作された対象物を知覚した鑑賞者は、欠落した不足要素を自らの想像力で補完する必要にせまられることとなるが、受け取る側がもつ複数の要因によって生じる個別の差異により、普遍的であるはずの作品のアイデンティティーが、度々変換されうるものとなる。 今回の展示を通じて、それらアイデンティティーを揺るがす事象を作品の中に組み込むことにより、その本質的な属性を表現できるのではないかと考えている。
-2010年 中井 章人

※全文提供: ギャラリーモモ


会期: 2010年10月23日(土)-2010年11月13日(土)

最終更新 2010年 10月 23日
 

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