寄神くり:すぐ隣りの出来事 |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2010年 11月 18日 |
パリと日本を拠点に活動する寄神くりは、様々な調度品をモチーフに、日常性の中に屈折や反転を引き入れることで、「道具/作品」というふたつの領域を巧みに縫い合わせつつ横断し、両者の関係性、さらにはそれらと私たちとの関係性に揺さぶりをかける立体作品やインスタレーションを制作しています。 テーブルクロスの裏側に施された動物や植物の細密刺繍。がま口財布の内側に広がる不穏な小世界と、その奥底にあいた小さな井戸=穴。一見典型的な図柄の絨毯には、よく見ると自然物と人工物が無秩序に絡み合った、現代の都市部独特の猥雑ともいえる風景が不完全な対称を成して織り込まれています。 私たちは、普段の生活の中で、特定の用途に沿って合理的に形作られた様々な家具や雑貨を身の回りに置くことで周囲の世界を系統立て、またそれらを使うことによって自らの行為や行動に一定の意味と方向性を与えながら、世界と自分自身の関係を文脈化しています。寄神は、それらの実用品としての形態をそのままに、物質そのものとしての存在感を局所的に誇張したり、寓話性や物語性を醸し出す細かな絵柄を、あえて裏側や内側といった見えない部分に緻密に刺繍したり、典型的・伝統的な形や模様の中に異質で卑近な要素を紛れ込ませたりすることで、実用性と装飾性、合理性と非̶合理性の振れ幅を微妙に操作し、その両極の間で揺れ動く不安定な存在物を生み出します。 鑑賞者は、一見何の変哲もない、ときにはどこか陳腐でさえあるそれらの「調度品」に対し、子どもの頃そうしたように、屈む、もぐる、覗き込む、目を凝らすといった、通常とは異なる姿勢や目線でもって接することで、その隠された部分に宿る濃密で非-現実的な「もうひとつの世界」の気配=「すぐ隣りの出来事」に触れることになります。そして、普段から目にし、使っているものに対する馴染深さと、少し遅れて湧き上がってくる不可解さや違和感とが入り交じった意識の中で、規定され整合化された世界との関係が、奇妙に歪み、ねじれながら、多義的で不定形な状態へ開かれつつあることに気づくでしょう。 本展では、絨毯をモチーフにした新作などを中心に、同時開催の牡丹靖佳による展示と互いに独立しつつ侵食し合うような、実験的な展示構成を試みます。 ◆オープニングイベント:1月9日(日)◆ ※全文提供: アートコートギャラリー 会期: 2011年1月9日(日)-2011年2月5日(土) |
最終更新 2011年 1月 09日 |