オノデラユキ:古着のポートレート |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2009年 8月 08日 |
オノデラユキはパリを拠点に活動する国際的なアーティストです。その作品は国内の美術館はもとより、パリのポンピドゥー・センターを始め、国立上海美術館、サンフランシスコ美術館など世界各地の美術館に数多くコレクションされています。ポンピドー・センターにおいては2006年の企画展に続き、現在開催中の『エル』展にも複数の作品が展示されています。さらに来年2010年には東京都写真美術館、ソウル写真美術館、ニエプス美術館(フランス)3つの美術館でそれぞれ異なった個展が予定されその活躍が期待されています。 ポンピドゥー・センターにもコレクションされているオノデラの代表作『古着のポートレート / Portrait of Second -hand Clothes』が、今回、銅版画の技法の一つであるフォトグラビュールによって新たに制作されました。銀塩写真とバライタ大型プリントにこだわるオノデラは、フォトグラビュール技法に、写真による硬質な描写力とは違う方向性を見いだし、手応えのあるマチエールを伴った絵画としての強度と存在感、精妙な手仕事のニュアンスの形跡を留めるフォトグラビュールこそが、デジタルプリントがスタンダード化する現代において、きわめて貴重で魅力ある技法だと確信しました。 今回のフォトグラビュール作品は、光沢感のある上質なブルーグレーの雁皮紙に二色のインクで刷られることによって、独特の温かく繊細なマチエールが生まれ、作品の内に秘められた絵画的内容がより表に出てくるような仕上がりとなりました。 『古着のポートレート』は1993年、オノデラの渡仏後、初の作品です。この年、現代フランスを代表する美術家クリスチャン・ボルタンスキーが巨大な倉庫を使って個展『離散 / dispersion』を開催し、そのインスタレーションに使われた「古着」がオノデラの手によって再利用=撮影されました。ボルタンスキーが古着による巨大なピラミッドでマッスの死を表現したのに対し、オノデラは一枚一枚の古着を独立した人格として捉え直し「ポートレート」として作品化したのです。 民族の歴史から個人の記憶へ。この実存性へのクリティークが『古着のポートレート』シリーズの底流に流れていることは明白であり、刻々と変化するモンマルトルの空を背景に毅然と立つ姿には、美術作品が持つ美、そして物としての実在を感じとることができるのです。 オノデラ独特のイメージとフォトグラビュールのコラボレーションによって、鑑賞者が自由にその想像力を拡げることができればと願っています。 オノデラ ユキ 全文提供: キドプレス |
最終更新 2009年 9月 05日 |