松嶋由香利:口にすると嘘になる呪文 |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2011年 7月 01日 |
児玉画廊では松嶋が京都市立芸術大学在籍中の2009年当時からKodama Gallery Projectやignore your perspectiveなどの企画展で取り上げ、またアートフェア東京(2009年)、G-tokyo 2011など、各アートフェアにおいても積極的に紹介して参りました。松嶋の作品は、ストーリーを背景に感じさせるような寓意的なペインティングやドローイングに、編み目や唐草模様、花柄などを描き込んだ装飾的な画面構成や、化粧用のラメ素材やシールのコラージュを多用して女性らしさを敢えて強調したような手法が特徴的です。 2009年の初個展「vacant evil」(児玉画廊|東京)では、一見そうした華やかで楽しげな表現の中に、怪談や怖いおとぎ話のような、毒の効いた描写や恐ろしさを匂わせるようなモチーフを織り交ぜた作品を発表しました。とはいえ恐ろしいものの描写はディフォルメされたり装飾化されて、むしろ可笑しな様子でさえあります。しかし、その気楽さがかえって怖さや不気味さを強調して、気付いた瞬間ドキリとさせられる、それは遊園地のお化け屋敷や肝試しに似た何とも言えない魅力を作品に加味しています。 続く昨年の「軽業修行」(児玉画廊|京都)では、美術館で見た軽業を描いた浮世絵や、大道芸、サーカスに着想を得て、お祭り的な喧噪と狂騒、非日常的な空気感をそのまま作品と展示によって具現化したような幻想的な空間を作り出しました。ひらめくサーカスの天蓋や道化の踊り、花火や紙吹雪できらびやかな宴の影にひっそり紛れ込んだ奇怪な何かが見え隠れしている様子は、「vacant evil」で見せた怖いけれど胸が躍るような高揚感とも共鳴して、より独創的な世界観を作り出していました。今回発表される新作では、前回までの要素に加えてより物語性を強調した描写、つまり絵を見る人にその背景にあるストーリーを想像させ、そこから更に画面に描かれていない部分へもイメージを連鎖的に膨らませることができるような含みを持たせた表現が多く見られます。片方だけいつの間にかなくした手袋、着せ替え人形のパーツを外して遊んだ記憶、ふと視界に滑り込んでくる猫、植物園の木々や花の鬱蒼と折り重なる様子、例えばそういった題材をまるで紙芝居や絵本の一場面のように演出的に描き出しています。 「口にすると嘘になる呪文」というタイトルは、今回の作品において松嶋のイマジネーションが如何に画面へ転じているのかを良く言い表しているように思います。夢や空想の中では、どんな素敵な事も起こりえて、どんな事も可能で、しかし、それを一端「口にする」、つまり浮かれた心を現実に引き戻してしまうと途端に魅力が失せてしまう、それはおそらく多くの人が共有する体験でしょう。醒めて欲しくなかった夢や、ひっそりと大事にし続けている空想は、誰にも言わずにそっとしておきたい、口にしなければ本当になるかもしれない、もっと言えば、口にしさえしなければ自分の中では本当のまま、という裏返しの意味なのかもしれません。つまりそれは極めて私的にしか通用しない呪文ということです。松嶋にとって作品制作は一人遊びで空想に耽るように、イマジネーションを自由奔放に操り絵筆で踊らせる事、そして松嶋独自のロジックでモチーフを散りばめ連鎖的に画面を構成していく過程は、まさにタイトルにあるような自分自身だけの呪文めいた行為なのでしょう。恐さ、楽しさ、良きも悪きも清濁併せ呑む松嶋の空想/幻想が織りなす作品の物語を、ぜひお楽しみ下さい。 全文提供: 児玉画廊 会期: 2011年7月2日(土)-2011年8月13日(土) |
最終更新 2011年 7月 02日 |