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松嶋由香利:vacant evil
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 8月 21日

画像提供:児玉画廊

松嶋は今年3月に京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了、在学中である07年より「Kodama Gallery Project」やコレクション展「ignore your perspective」などの企画における児玉画廊での発表に加えて、昨年来立て続けにULTRA01、Art@Agnes、アートフェア東京など各フェアにおいても積極的に紹介して参りました。

今回は松嶋の待望の初個展であり、そして、作品単体にフォーカスしがちなアートフェアやグループショー等では体系的に見せられなかった松嶋作品の世界観を存分にお楽しみ頂ける機会となります。 松嶋の作品は奇妙なモチーフに満ちています。地引き網、花火、夏草、妖怪や幽霊、悪意あるいは怪異。二元論的に対比する何かを一方が暗に物語るとすれば、松嶋の作品では、寓話の多くが多少の恐怖を秘めているのと同じように、愛らしく戯けた描写、女性的で優美な色彩や線描の内側へ、知らずと踏み込めばそこはもう悪戯や不条理が支配する世界です。また一方で、ネガティブなモチーフで埋め尽くされていながらもシリアスになれない、あるいは陰惨になりきれないところは却って怪奇さを増すのかもしれませんが、アクセント的なラメや、型抜きパンチで作った雪印のコラージュなどのちょっとした素材使いにも、作家本人の気楽さや遊びが感じられて、おどろしい反面おかしさを含んだ複雑な感情が呼び起こされます。 朧げな存在、認識はあっても実感できないもの、道理を越えた現象、あるいはそういった幻想、奇想と結びつくもの。松嶋によって、現実から少しスライドした所で跋扈するそららのイメージが寄せ集められ、単純化や装飾的な要素を加えられ、次第に無意味が意味を持ち始めるように有象無象の集まりがやがてぎこちない景色を作り、現象を生み、物語りを始めるように画面を彩ります。正しい鏡像を映さない水面、山は人となり、広がる網があらゆる事物を絡め上げ、当たり前の事象全てが歪んで、描かれたはずの悪意や奇想すら楽しげになってしまう混迷、それが当たり前の世界。松嶋にとって、作品を描くという行為が現実とは違う摂理に手を触れる事であるならば、「空っぽの禍(わざわい)」と作家が表すところの本展では、災いや恐怖でさえも形だけ残してその本質を見失った賑々しくも奇異な作品を前に、常識などいとも容易く弄ばれてしまう事でしょう。

全文提供: 児玉画廊

最終更新 2009年 8月 22日
 

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