高橋宗正:スカイフィッシュ |
展覧会 |
執筆: カロンズネット編集 |
公開日: 2010年 3月 11日 |
高橋宗正は2004年にart & river bank(東京)で開催した個展「hinterland」以来、"写真にしかできない表現"を追求してきた。高橋が満を持して刊行する『スカイフィッシュ』は、写真につきまといがちな「物語性」を排し、写真表現の力だけを推進力にして構成されている写真集である。 雪の火口湖に立つ人影、水の中を漂う細長い魚影、夜陰に舞う雪と戦ぐ木枝、雪を浴びる長髪の男、火山礫に停めた車と三人の男、蜘蛛の巣についた水滴......。なんの脈略もないかのように並ぶ写真は、6×6、35mm、デジタルカメラと複数のカメラが混ざり合い、フォーマットも縦、横とさまざまだ。 かつて高橋宗正にインタビューしたとき、憧れているアーチストとして、映画監督の宮崎駿の名前が出てきたことがある。
このような発言の一方で、写真集『スカイフィッシュ』を支配しているのは、瞬間や空間を切り取る写真ならではの視線と、激しい断絶の感覚である。また "現実らしさ"や"虚構性"を感じる写真も目を惹くことだろう。 大衆性を指向するかのような発言と、拒絶的にも見える写真の羅列。この二つは、決して矛盾しているわけではない。"アート"というジャンルや"文学"の物語性に依存することなく、写真が"写真それ自体"として自立することを目指し、写真以外では不可能な表現を模索しているのだ。それはまるで"孤独な綱渡り" かもしれないかもしれないけれど、写真を撮るということは、本来このようなことだったはずだ。 高橋宗正は、写真によって"物語を紡ぐ"という常識化した通念に立ち向かい、写真本来の力を取り戻そうとしているのである。 ※全文提供: AKAAKA
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最終更新 2010年 3月 19日 |
2004年のart & river bank(東京)での個展を印象強く記憶している者にとって待望の写真集刊行と個展開催である。
虹のでるカメラ、手の平の上に乗る人たちなど滑稽にして痛快な現実にはありえない写真がありながら、その間隙に水中の魚影、雪山、月夜など自然や都市の光景が現実へと引き戻す。ユーモアとメランコリー漂う写真を見るにつれ「写真を見ること」の高揚感が高まりだす。新年度を迎え馴染めない春を迎えている全ての人々に奨めたい爽快なエンタテインメント写真である。
なお、展示が見られないという方は写真集『スカイフィッシュ』(2010年、赤々舎)をご覧頂きたい。加えて、掲載されている哲学者・木田元氏の幸福感溢れるテキストも強くおすすめする。